Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.12.19

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その102

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第二十一席 (2)

管理人註
   

 佐助は二人は離座敷の隠居所へ案内を致しますと。                      『どうも深更に参りまして、御造作を為せます、併しいつも御壮健で』                            『イヤ壮健と云つた処で、私もモウ七十二歳、年を老ると役に立たぬ ぢやテ、連の衆があるやうぢやな』  『一人召連ました、伯父さん、夜中御迷惑でもございましようが、私 共二人に、お湯漬でも頂戴致したいもので』                     いよい  来ると直ぐに飯の所望をするので、老人は愈よ不審を懐き。  『コレ/\孝右、見る処が、何だかソワ/\として居るやうぢやが、 如何したのか』  と尋ねられて孝右衛門は、事実を語るも憂し、また語らぬのも憂し、暫    うつむ        こゝろ らくは俯首て居りましたが、意を定めて。      こんてう  『実は今朝、天満に出火がございましたので、日頃から懇意の大塩先 生の処へお見舞に駈け附けました、処が先生は窮民の大義とやらで、徒党       かどで              よんどこ を集め、今其首途と云ふ処でございましたから、拠ろなく一味に加はり ました処が、忽ちにして敗北し、一同の者は捕方に追まくられ、私と是れ に居りますは、杉山三平と申す者でございますが、命から/゛\逃げて参              まんま りました、夫れゆえに今朝お飯を食つたなりで、誠に空腹でございまして ……』  正方は委細を聞いて打驚きながら、取敢ず両人に湯漬を喰はせますると、 イヤ食ふとも/\、大きな飯櫃に一杯あつた飯を、ペロリと平げて了ひま した。               やつ  『有難う存じます、是れで漸と人心地が附きました』  『考へて見ると、叔父甥と云ふのは私の事、当然から云へば、召連れ 訴へをせんければ相成らぬ』  『エツ』                  ぼうず  『サツ、マア聞かつしやれ、併し僧侶の身でもあり、肉親の間柄で、 そんな事も出来ない、全体これから如何するつもりぢや』  『実は姿を変へて身を隠さうかと存じますから、伯父さん、剃刀がご ざいますならお貸し下さいまし、頭を剃つて僧侶に化けまする』  『剃刀を貸せと云ふが、生憎剃刀は無い』  『夫れではどうか鋏を』  『鋏なら有るが、切れるかどうだか』  と云ひながら鋏を取り出して、孝右衛門に渡しますと。  『有難う存んじます、三平、此鋏で私の髪を切つて呉れ』


幸田成友
『大塩平八郎』
その153 

石崎東国
『大塩平八郎伝』
その121


『大塩平八郎』目次/その101/その103

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