Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.28

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その61

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十二席 (5)

管理人註
   

                                  朝の六ツ前から往つて、モウ八ツ頃、今日の午後二時頃になるのに、未            あつち        こつち だ本会所の前に立つて、彼方へ押れ、此方へ突かれ、他の者等に先を越さ れて居る者もございます、併しながら河内屋喜兵衛が、充分に其準備をし                            け が で置きましたから、非常の混雑ではございましたが、別に負傷人とてもな                            わけあた く、其日の七ツ時頃には、一万軒に対する一朱銀は、残らず頒与へました、                   ますま サア斯うなりますと大塩平八郎の名は、益す高くなりまして、涙を流して            いきがみ        たつと 喜ぶ者もあれば、中には活神様と云つて尊みます者もある位、余り評判を する者でございますから、跡部山城守は思惑がガラリと違つて来た、と云    さき ふのは曩に平八郎が、鴻池をはじめ歴々の町人へ、金談を申し込んだ時に、 大塩の鼻ツ柱を折つて其声価を減じさせやうと思ひ、町人共を叱り付けて、 其金談を成立させぬ事にして、モウ大方是れで大塩の名も、次第に人に忘 れられるであらうと思つて居た処が、今度の施行の事から、猶更其名が高 くなりまた、そこで黙つては居られませんから、早々大塩格之助を呼出し まして。  『格之助、其方の父平八郎は、当時隠居の身の上ぢやが、何と心得て          みだ 居るのぢや、聞けば漫りに貧民共に施行を致したとの事ぢやが、先達ても 申し達した通り、今年は御代替はりで、公儀に於かせられても御入費も多 端の折から、夫れゆえに御施行米の事さへ、御見合せと相成りし程である             ほしいま           うは         ないがしろ のに、其御趣意に背いて、恣まに施行をするとは、全く上役人の者を蔑如 にすると云ふもの、実に不都合千万、畢竟するに平八郎、私の名を売らん                     きつと が為めにせし事であらう、其罪軽からねば、屹度御沙汰にも及ぶべき処な                              このたび れども、何分にも隠居の身分であるから、格別の詮議を以つて、此度は差 許さるゝ間、以後は必らず心得違ひ無いやうに、其方から能く申し聞かす が宜い、実に不都合の至りぢや』  と山城守は苦り切つて譴責を加へましたので、格之助は早々立帰つて、 養父平八郎へ、委細の事を話しました、そこで平八郎もまた一層山城守を                         まきちら 憎みまして、此上は予ての企てを、一日も早く檄文を撒布して人心を激さ せて置く必要があると思ひ、また然うする時には、天下の公衆に、大塩平 八郎の志のある処を知らす事が出来ると思ひ、一篇の檄文を草しました、    み な さ ん 一寸愛読諸君へ申上げますが、此檄文を詳しく申上げますのが本講談の最 も必要でございますけれども、如何にも長文でございまして、却つて御退                        つま 屈になりましては相成ませんから、其檄文の大要を摘んで申上げる事に致 しますから、其おつもりで……。


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その103

幸田成友
『大塩平八郎』
その111大塩施行札


『大塩平八郎』目次/その60/その62

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