Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.10.31

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その63

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十三席 (1)

管理人註
   

              したゝ  大塩平八郎は精神を籠めて書認めました檄文を、一同の者に見せました                             かたづ 時には、其一室に集まつて居りました十数名の者は、いづれも堅唾を呑み、      しはぶ 拳を握つて咳き一ツする者とては無い位、シーンとして静まり返つて居り ました、尤も声を上げて読み聞かせるのではない、一人づゝ口の中で読ん     をは で、読み了ると次から次へと廻すのだから、大分時間がかゝります、平八 郎は一同の読み終るのを待つて。  『此檄文も矢張り版に彫らせて、印刷をさせねばならぬが、もしや其 職人共から洩れては一大事でござる、儀左衛門殿、どうしたものであらう か』  庄司儀左衛門に相談をすると。                      うかつ      いひつ  『いかにも漏洩の恐れがございますから、迂闊な者に吩咐けられませ                    とても ん、と云つて一々是れを書くと云ふ事は、到底出来ませんから……』               かたは  と暫らく考へて居りますと、傍らから吹田村の宮脇志摩が。                    あ  きつて  『先達て貧民共へ施行をした時に、彼の証券を彫らせたのは、河内屋             は ん や 喜兵衛方へ出入をする、彫刻師だと承つたが、今度もまた其物に命じては いかゞ 如何でござらうか』  『成程、是れは好い考へだが、併しながら草稿を職人等の手に渡して、 自宅で彫刻をさせては、漏洩の恐れがあつて安心がならぬから、其職人を やしき 此邸へ呼び附けて人目にかゝらぬ処で彫らせる事にいたさう、兎も角も一        枚の板木では可けないから、草稿を二枚認めるが宜からう』  と平八郎は一座の人々を見廻しまして。  『済之助と図書の両人は、此通りを一枚づつ、版下に書いて呉れるや うに』  と瀬田済之助と安田図書の両人を指名しました、瀬田は東組与力の中で                       おんし も能筆、また安田と云ふのは、勢州山田、外宮の御師の忰でございまして、 是れも字を書く事が達者でございます。  両人『委細承知仕りました』  と両人は座を立つて、別室で版下の草稿を認めにかゝりました。  『夫れでは先生、河内屋喜兵衛へ方の使を遣りませうか』  『左様にいたさう、格之助、三平でも岩蔵でも宜いから、此処へ呼ん で来るが宜い』  『ハア……』  と云つて格之助は勝手の方へ行きましたが、直ぐに杉山三平と云ふ若者 を連れて参り。  『岩蔵は居りませんから、三平を呼んで参りました』  『先生、何処かへお使ひに参りますので……』  『其方、本屋の河喜を存じ居るであらう』  『ヘイ存じて居ります』  『其河喜へ往つて来て呉れい』  と云ひながら、さら/\と書状を認め。  『此状を喜兵衛に渡して、返辞を聞いて参れ』    かしこ  『畏まりました』


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その109

幸田成友『大塩平八郎』
その98大 塩 檄 文


『大塩平八郎』目次/その62/その64

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