Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.11.1

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その64

香川蓬洲

精華堂書店 1912

◇禁転載◇

第十三席 (2)

管理人註
   

    ふばこ  三平は文箱に書状を入れて、直ぐに心斎橋筋の河内屋喜兵衛方へ行きま                   こら       うち した、其後また一同が、何事をか密議を凝して居る中に、草稿の清書も出 来、また杉山三平も立帰りまして。  『参りましたら折よく喜兵衛さんが店に居りまして、御手紙の趣を承        めうにち     やしき 知仕りました、明日早速お邸宅へ、差出す都合にいたしますと申しました』  『明日から職人共を寄越すと云つたか、イヤ夫れでまづ安心ぢや』             は ん や  と云つて、是れから、彫刻屋の来た時の手筈などを相談し、其日は夫れ で過ごしました。                  てがみ          じぶん  こしらへ  扨此方は河内屋喜兵衛、大塩からの書紙には、今度後素が著述たものを、                きつて             やしき 彫刻させて置きたいから、先達て証券を彫らせた彫刻師を、四五名邸宅へ、 出稼ぎとして寄越して貰ひたいとの文意でございましたから、承知の趣を 三平に返事をいたし、早速北久太郎町五丁目の版木師、市田次郎兵衛と云                    しかじか ふのを呼び寄せまして、大塩後素先生から云云のお頼みがあつたから、明 日必ず職人等三四名を連れて、天満のお屋敷まで往つて呉れと申し附けま                ひま した、版木師も此頃は不景気で、閑で困つて居る処だから大きに喜び、翌 日は源助。芳蔵、忠五郎と云ふ三人を連れて、大塩の邸宅へ出掛けて参り。  『ヘイ、御免下さいまし、私共は河喜さんへお出入りを致します版木 屋でございます、何か御当家様に仕事があるから、往つて呉れろと河内屋 の旦那が仰しやいましたので、三人計り職人を召連れて参りましてござい ます』     やしき  大塩の邸宅にはモウ此頃では、絶えず同志の人々が集まつて居りますか    うち ら、其中の一人梅田源左衛門が夫れへ出て参り。  『アゝ左様か……先生、河喜から彫刻師を寄越して呉れました』  平八郎、是れを聞いて内玄関へ出て参り。         は ん や               こつち  『其方達は彫刻師であるか、御苦労/\、サア皆此方へ上つて呉れ』  『ヘイ恐れ入りまする……』  『イヤ/\、何も恐れ入る事はない、サア皆此方へ来なさい』  と四人の者を一間へ通しまして。  『お前達は皆道具を持つて来たであらうな』  『ヘイ、持参いたして居ります』           『よし/\、而してお前の名は何と云ふのか』  『ヘイ、次郎兵衛と申します』  『跡の三人は下職人ぢやな……お前の名は』  『私は源助と申します』  『左様か、其次の人は』    はげよし  『兀芳と申します』  『兀芳とは変つた名ぢやナ』                        はが  『エヘゝゝゝ旦那様、其奴は御覧の通り、頭を兀して居りますので、 ツイ兀芳/\と申しますが、名は芳蔵と申しますので』  『イヤ左様であつたか、そつちに居る人は』


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その109

幸田成友『大塩平八郎』
その98大 塩 檄 文


『大塩平八郎』目次/その63/その65

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