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ふばこ
三平は文箱に書状を入れて、直ぐに心斎橋筋の河内屋喜兵衛方へ行きま
こら うち
した、其後また一同が、何事をか密議を凝して居る中に、草稿の清書も出
来、また杉山三平も立帰りまして。
三『参りましたら折よく喜兵衛さんが店に居りまして、御手紙の趣を承
めうにち やしき
知仕りました、明日早速お邸宅へ、差出す都合にいたしますと申しました』
平『明日から職人共を寄越すと云つたか、イヤ夫れでまづ安心ぢや』
は ん や
と云つて、是れから、彫刻屋の来た時の手筈などを相談し、其日は夫れ
で過ごしました。
てがみ じぶん こしらへ
扨此方は河内屋喜兵衛、大塩からの書紙には、今度後素が著述たものを、
きつて やしき
彫刻させて置きたいから、先達て証券を彫らせた彫刻師を、四五名邸宅へ、
出稼ぎとして寄越して貰ひたいとの文意でございましたから、承知の趣を
三平に返事をいたし、早速北久太郎町五丁目の版木師、市田次郎兵衛と云
しかじか
ふのを呼び寄せまして、大塩後素先生から云云のお頼みがあつたから、明
日必ず職人等三四名を連れて、天満のお屋敷まで往つて呉れと申し附けま
ひま
した、版木師も此頃は不景気で、閑で困つて居る処だから大きに喜び、翌
日は源助。芳蔵、忠五郎と云ふ三人を連れて、大塩の邸宅へ出掛けて参り。
次『ヘイ、御免下さいまし、私共は河喜さんへお出入りを致します版木
屋でございます、何か御当家様に仕事があるから、往つて呉れろと河内屋
の旦那が仰しやいましたので、三人計り職人を召連れて参りましてござい
ます』
やしき
大塩の邸宅にはモウ此頃では、絶えず同志の人々が集まつて居りますか
うち
ら、其中の一人梅田源左衛門が夫れへ出て参り。
源『アゝ左様か……先生、河喜から彫刻師を寄越して呉れました』
平八郎、是れを聞いて内玄関へ出て参り。
は ん や こつち
平『其方達は彫刻師であるか、御苦労/\、サア皆此方へ上つて呉れ』
次『ヘイ恐れ入りまする……』
平『イヤ/\、何も恐れ入る事はない、サア皆此方へ来なさい』
と四人の者を一間へ通しまして。
平『お前達は皆道具を持つて来たであらうな』
次『ヘイ、持参いたして居ります』
そ
平『よし/\、而してお前の名は何と云ふのか』
次『ヘイ、次郎兵衛と申します』
平『跡の三人は下職人ぢやな……お前の名は』
源『私は源助と申します』
平『左様か、其次の人は』
はげよし
源『兀芳と申します』
平『兀芳とは変つた名ぢやナ』
はが
次『エヘゝゝゝ旦那様、其奴は御覧の通り、頭を兀して居りますので、
ツイ兀芳/\と申しますが、名は芳蔵と申しますので』
平『イヤ左様であつたか、そつちに居る人は』
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石崎東国
『大塩平八郎伝』
その109
幸田成友『大塩平八郎』
その98
「大 塩 檄 文」
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