大砲持参
山城守出馬
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先刻山城守の懇望に任せ、蒲生熊次郎は馬を飛ばして玉造口ヘ取
つて還し、大筒準備の事を申通じたので、平与力四名抱大筒持参
の上、目付中川半左衛門の役所へ罷出づるやうにと、但馬守より
岡翁助の手許への命令が達した、其所で柴田勘兵衛・石川彦兵衛・
脇勝太郎・米倉倬次郎の四名が撰に当り、勘兵衛彦兵衛は各々百
目玉筒一挺、勝太郎倬次郎は両人にて三十目玉筒一挺を携へ、目
付の御小屋へ伺つた所、折悪敷留守との事で、直ちに城代御玄関
へ行き、但馬守に挨拶をして東役所へ遣つて来た、其時但馬守が
銘々着込を着してゐるかと問はれたら、イヤ大筒の玉先に向つて
は着込は何の役にも立ち申さず、場所へ出でたる上は存命にて罷
帰る覚悟毛頭これ無しと、大言を払つて出たが、彼等四人は実際
最後に至るまで一発をも放つ機会を得無かつた、路次戦ともいふ
べき場合に、百目筒などを携へて来るのが抑も間違で、鉉之助如
きは十匁玉筒ですら、普通の儘では貫穿力が強いと考へ、火薬を
半滅したといふ位である、何は兎もあれ与力四名と同心小頭二名
とが新に到着したので、山城守配下の玉造ロ応援隊は今や合計与
力七名同心三十二名となり、与力は玄関前に、同心は門前に整列
して待つて居ると、程なく山城守は玄関先に見えた、其時鉉之助
は拙者同心を引連れ先頭へ参るべく、去り乍ら道筋不案内故、確
としたる案内をお立て下さるやうにと願つた、尤千万の次第と、
一隊の先頭には山城守の纏を押立て、それへ案内の士が一人つい
た、
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先刻山城守の懇望に任せ、蒲生熊次郎は馬を飛ばして玉造口ヘ
取つて還し、大筒準備の事を申通じたので、但馬守から岡翁助に
対し、平与力四名抱大筒持参の上、目付中川半左衛門の役所へ罷
出づるようにとの命令が達した。よつて柴田勘兵衛・石川彦兵衛・
脇勝太郎・米倉倬次郎の四名が撰に当り、勘兵衛彦兵衛は各々百
目玉筒一挺、勝太郎倬次郎は両人にて三十目玉筒一挺を携へ、目
付の御小屋へ伺つた所、折悪敷留守との事で、直ちに城代御玄関
へ立寄り、但馬守に挨拶をして東役所へ来た。挨拶の際但馬守が
銘々着込を着してゐるかと問ふと、イヤ大筒の玉先に向つては着
込は何の役にも立ち申さず、場所へ出た上は存命にて罷帰る覚悟
毛頭これ無しと、大言を払つて出たが、彼等四人は実際最後に至
るまで一発をも放つ機会を得無かつた。路次戦ともいふべき場合
に、百目筒なんどを携へて来るのが抑も間違で、鉉之助如きは十
匁玉筒ですら、普通の儘では貫穿力が強いと考へ、火薬を半滅し
たといふ位である。何は兎もあれ与力四名と同心小頭二名とが新
に到着したので、山城守配下の玉造ロ応援隊は今や合計与力七名
同心三十二名となり、与力は玄関前に、同心は門前に整列して待
つて居ると、程なく山城守は玄関先に現はれた。鉉之助進み出で、
拙者同心を引連れ先頭へ参るべく、去り乍ら道筋不案内につき、
確とした案内をお立て下さるやうにと申立てると、尤も千万の次
第と、一隊の先頭には山城守の纏を押立て、それへ案内の士が一
人ついた。 |