所信の断
行
孔夫子の
発強剛毅
なる半面
吏務遂行
の大精神
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其の訟を聴くや、吾猶ほ人の如きを期し、恥あり且つ格るを望み、其の法を
行ひ律を案するや、穣苴孫武が、周官司馬の法を断行せるを摸範とし、其の
職を恪守し、責を重むするや、「周官之正、則在 六官各恰 守其職 」を学ば
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むとする平八郎は、其の信するところを断行するに於いて、亦た勇為果敢、
発強剛毅なるを期図せり、
後儒以 孔子温良恭倹譲五字 、為 其伝神写真 矣、故有 以 発強剛毅 、為
英雄之態 、而不 為 聖人之事 者 、是乃大惇 于天道 、而甚叛 於中庸 也、
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夫温良恭倹譲、即柔徳而非 陽徳 、尊 柔徳 而  陽徳 、乃青牛老之道、
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而非 我夫子之道 也、故夫温良恭倹譲、特其求 聞 政時之気象徳容耳、亦
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何膠柱焉哉、両観之誅、夾谷之会、堕 三都 之挙、討 陳恒 之謂、是非 発
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強剛毅 而何、聖人之神化万変与大 斉焉、豈有 春温 而無 秋殺 哉、要時
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中而已矣、吁、後人求 聞 政、則狡詐百端、進取而後止矣、而猶称 温良恭
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倹譲 、以陰禦 正人或用 、其当 禍害 、則遜避千計、逃而安矣、而尚憎
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発強剛毅 、以顕沮 君子之或行 、而正人君子亦泥焉拘焉、而不 知 天道中
庸之神化 、却為 衆人 所 沮撓 、不 得 行 其万分之一 、則豈非 可 惜乎、
豈非 可 恨乎、吾為 宋末諸君子 、発 此一論 、謹告 其在 天之精霊 云、
平八は孔子の温良恭倹譲を以て、其の大行の半面となし、他の半面は即ち
両観の誅、夾谷の会、三都を堕つの挙、乃び陳恒を討つの請の如き、発強剛
毅に在りと観察したり、平八の眼中に映したる孔子は、即ち此の如とし、故
に其の特に孔子の発強剛毅なる半面に意を注き、之を其の凡百行為、特に其
の吏務を掌理するの際に用ひたるは、以つて其の学風と其の精神の如何にし
て、又た那辺に在るかの一臠を、味ふに於て余りあるべし、然り平八は此の
精神を以つて吏務を処決せり、此の学風を以つて教育を遂行せり、其の学風
の骨髄とし、眼目としたる、全くこゝに在りしことに就ては、今暫く措いて
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こゝに之を贅せず、其のかゝる精神を吏務の方針とし、主脳としたるに至つ
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ては、以つて其の訟を聴き獄を析する、凡へて此の方針と、此の主脳とより
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流注し、拡充されたるものたること、多言を用ひずして明白なるを知るべし、
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此の如き精神を以つて、彼の如く職責を重むし、彼の如く法を行ひ律を案し、
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彼の如く訟を聴き獄を析す、其の勇往直前霹靂雷霆の如きと、其の敢為果鋭
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寒霜烈日の如きものありしとは、固より怪むに足らず、其の克く毅然として
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権勢に屈せず、威武に撓ます、風発 氏A姦猾を糾明し、妖教を芥鋤し、邪
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僧を沙汰したる、吏務上の治績に至ては、要するに皆な此の大精神に、其の
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淵源を有するものたること、亦た火を睹るか如きあり、
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『洗心洞箚記』 (本文)
その146
一臠
(いちれん)
ひときれの
撓(たわ)ます
睹(み)る
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