国府犀東『大塩平八郎』23

Я［大塩の乱資料館］Я
2016.4.22

「大塩の乱関係論文集」目次

『大塩平八郎』　その２３
国府犀東（1873-1950）

（偉人史叢８）裳華書房　1896

◇禁転載◇

吏務の治績（９）
管理人註

招隠を賦す荘重静黙なる新絵巻

　招隠篇并序 　　昇平二百有余歳、上下無事、而天下不可謂全無弊也、文政十丁亥之歳、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ●　　● ●　● ●　● ● 　　廼吾官長高井公莅任之七年也、是歳之夏四月、公命余補索耶蘇之邪党　　于京摂之間。以窮治之不日招伏就焉、公申呈之府、々府聞之于　　　東都憲台、経三年之久而発落矣、妖邪煽誘庶民之害、於是乎稍息、　　十二年已丑春三月、公又命余糾察猾吏姦卒与豪強潜通隠交以蠹政害　　人者、而其所汪連及要路之人、臣僕歴世之官司、非不知之、蓋有　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ●　●　 ●　● ●　● 　　所怖且憚而遁之歟、若爾、不憂世思民之甚者也、余感公之忠憤、　　終置禍福利害於度外、潜図密策、施疾雷不掩耳之遺意、以摘其伏　　発其姦、魁首自刄、余党各就刑于藁街死者若于人、挙其贓、有　　三千金皆是民之膏血也、散之以肇建振恤煢独之法、姦猾蠧蝕、庶　　民之害於是乎又漸除、而無告人亦庶幾蘇息矣、十三年庚寅春三月、　　　　　　 ●　　●　● ●　● ●　● 　　公又命余沙汰浮屠之汚行天不与束浮屠、幾年于茲故肆然犯　　婦女食魚鳥焉、甚於不頼之年少其羶腥汚穢、挙邦皆然矣、不徒此　　　　　　　　・・　・・・・・・・・・・・・　・・・・　　一方也、若急理之、則必不堪繁刑、故敷訓戒之令、既及再三、　　・・・・・・・　　終逮捕其不悛者、放数十人、尽流竄海島、使与邦人不歯、僧　　　　　　　　　　　 ○　○ ○　○ ○　○ ○　○　○　　 ○ ○　○　○　○　 ○ ○　○　　　 ○　 ○ 　　風於是乎一変矣、且京兆南都界浦亦風靡、其官司各黜貪餐吏、誅姦　　 ○　○　　　 ○　○　○　　○　 ○　○　○　○　　　○　○　○ ○　○　　 ○　○　 ○　○　○　○ 　　邪僧、無皆不出于公之後、然則公之挙、諸衙之嚆矢也哉、而公年重　　　　　　　　　 ●　　●　 ●　● ●　　　　　　　　　 ○　○　　　○ ○　○ ●　● ●　●　　 ○ ○　○ 　　七十、其秋七月上養病之疏而未允、嗚呼、余齡則三十有七、職則微　　 ○　　 ○ ○　○　○　○　　 ○　 ○　○　 ●　 ●　●　　　 ●　　●　●　　　●　 ●　●　　　 ○　○　 ○　○　○ 　　賤、而言聴計従、関大政除衙蠧、鋤民害、規僧風、豈非千歳之　　 ○　○　 ○　　　　　　　　　　 ●　●　 ●　　●　 ●　●　 ●　●　●　● 　　一遇乎、而公之進退乃如此、義不得不共棄職以招隱而観陳眉公　　読書鏡所載包明之於陽岐王也、不顧妻子之飢寒、弃職不往於汪　　　　　　　　 ○　○　 ○　○　　 ○　 ○　○　○　○　　　○　 ○　○　○　○ ○　　　○　○　　○　○ 　　公徹之府、則余雖俗吏、読聖賢之書、従事良知之教、能無感于　　 ○　○ 　　心乎、見将公之去而混樵漁之伍故賦招隠之短篇、　・・・・・・・　・・・・・・・　 ○　○ ○　　○　 ○　○ ○ 　昨夜閒夢始静、今朝心地似僊家、誰知未乏素交者、　秋菊東籬潔白花、平八は今や退いて招隠を賦せり、渠は其の養子格之助をして其の職を嗣がしめたり、刀筆の吏たる平八生活の半面は、是に於て其の敢為殺伐なる画巻を収めたり、平八は今や町奉行与力吟味役の職を帯びざるなり、司法の笏は渠　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ○　○ の掌中より擲たれたり、而して平八は其の代りに経史の巻を手にせり、平八 ○　○ ○　　○　 ○　○ ○ 生活の半面たる、洗心洞主人として、大塩中斎として、余姚学風の継紹者として、聖経賢伝の標幟者としての、荘重静黙なる新絵巻は、今や将に専一に其の厳格なる修穆なる紙面を開かむとするなり、是より平八郎は、洗心洞の一処士として篆印を用ゆる『聖朝吏隠』の四字を刻せる者を以てせり、　湖上煙波帰未帰。無功釣漁亦応非。　　　　大塩後素　頼佐地方済時効。今秋共載芥荷衣
幸田成友『大塩平八郎』その１７２敢為 (かんい) 物事を困難に屈しないでやり通すこと 擲(なげう)たれ 修穆 (しゅうぼく) 島本仲道『青天霹靂史』その５４
　

吏務の治績（９）	管理人註
招隠を賦す荘重静黙なる新絵巻	招隠篇并序　　昇平二百有余歳、上下無事、而天下不可謂全無弊也、文政十丁亥之歳、　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ●　　● ●　● ●　● ● 　　廼吾官長高井公莅任之七年也、是歳之夏四月、公命余補索耶蘇之邪党　　于京摂之間。以窮治之不日招伏就焉、公申呈之府、々府聞之于　　　東都憲台、経三年之久而発落矣、妖邪煽誘庶民之害、於是乎稍息、　　十二年已丑春三月、公又命余糾察猾吏姦卒与豪強潜通隠交以蠹政害　　人者、而其所汪連及要路之人、臣僕歴世之官司、非不知之、蓋有　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ●　●　 ●　● ●　● 　　所怖且憚而遁之歟、若爾、不憂世思民之甚者也、余感公之忠憤、　　終置禍福利害於度外、潜図密策、施疾雷不掩耳之遺意、以摘其伏　　発其姦、魁首自刄、余党各就刑于藁街死者若于人、挙其贓、有　　三千金皆是民之膏血也、散之以肇建振恤煢独之法、姦猾蠧蝕、庶　　民之害於是乎又漸除、而無告人亦庶幾蘇息矣、十三年庚寅春三月、　　　　　　 ●　　●　● ●　● ●　● 　　公又命余沙汰浮屠之汚行天不与束浮屠、幾年于茲故肆然犯　　婦女食魚鳥焉、甚於不頼之年少其羶腥汚穢、挙邦皆然矣、不徒此　　　　　　　　・・　・・・・・・・・・・・・　・・・・　　一方也、若急理之、則必不堪繁刑、故敷訓戒之令、既及再三、　　・・・・・・・　　終逮捕其不悛者、放数十人、尽流竄海島、使与邦人不歯、僧　　　　　　　　　　　 ○　○ ○　○ ○　○ ○　○　○　　 ○ ○　○　○　○　 ○ ○　○　　　 ○　 ○ 　　風於是乎一変矣、且京兆南都界浦亦風靡、其官司各黜貪餐吏、誅姦　　 ○　○　　　 ○　○　○　　○　 ○　○　○　○　　　○　○　○ ○　○　　 ○　○　 ○　○　○　○ 　　邪僧、無皆不出于公之後、然則公之挙、諸衙之嚆矢也哉、而公年重　　　　　　　　　 ●　　●　 ●　● ●　　　　　　　　　 ○　○　　　○ ○　○ ●　● ●　●　　 ○ ○　○ 　　七十、其秋七月上養病之疏而未允、嗚呼、余齡則三十有七、職則微　　 ○　　 ○ ○　○　○　○　　 ○　 ○　○　 ●　 ●　●　　　 ●　　●　●　　　●　 ●　●　　　 ○　○　 ○　○　○ 　　賤、而言聴計従、関大政除衙蠧、鋤民害、規僧風、豈非千歳之　　 ○　○　 ○　　　　　　　　　　 ●　●　 ●　　●　 ●　●　 ●　●　●　● 　　一遇乎、而公之進退乃如此、義不得不共棄職以招隱而観陳眉公　　読書鏡所載包明之於陽岐王也、不顧妻子之飢寒、弃職不往於汪　　　　　　　　 ○　○　 ○　○　　 ○　 ○　○　○　○　　　○　 ○　○　○　○ ○　　　○　○　　○　○ 　　公徹之府、則余雖俗吏、読聖賢之書、従事良知之教、能無感于　　 ○　○ 　　心乎、見将公之去而混樵漁之伍故賦招隠之短篇、　・・・・・・・　・・・・・・・　 ○　○ ○　　○　 ○　○ ○ 　昨夜閒夢始静、今朝心地似僊家、誰知未乏素交者、　秋菊東籬潔白花、平八は今や退いて招隠を賦せり、渠は其の養子格之助をして其の職を嗣がしめたり、刀筆の吏たる平八生活の半面は、是に於て其の敢為殺伐なる画巻を収めたり、平八は今や町奉行与力吟味役の職を帯びざるなり、司法の笏は渠　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 ○　○ の掌中より擲たれたり、而して平八は其の代りに経史の巻を手にせり、平八 ○　○ ○　　○　 ○　○ ○ 生活の半面たる、洗心洞主人として、大塩中斎として、余姚学風の継紹者として、聖経賢伝の標幟者としての、荘重静黙なる新絵巻は、今や将に専一に其の厳格なる修穆なる紙面を開かむとするなり、是より平八郎は、洗心洞の一処士として篆印を用ゆる『聖朝吏隠』の四字を刻せる者を以てせり、　湖上煙波帰未帰。無功釣漁亦応非。　　　　大塩後素　頼佐地方済時効。今秋共載芥荷衣	幸田成友『大塩平八郎』その１７２敢為 (かんい) 物事を困難に屈しないでやり通すこと擲(なげう)たれ修穆 (しゅうぼく) 島本仲道『青天霹靂史』その５４