Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.6.6

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その62

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

知友に一代の翹楚多し(10)

管理人註







































琵琶湖上
の大風濤

  院畔古藤花尽時。泛湖来拝昔賢碑。余風有比良雪。   流滅無人致此知。 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ 藤波の花ばら/\と墜ちて声あり、四辺人もなく、物もなく、寂として寥々、 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ 唯比良山の一角、崢エとして秀で、寵として峙ゆるを見るのみ、平八が此 ・・・・・・ ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ の間に竚立し、盤桓し、如何に低徊去る能はざりしものありしかば、思ひ遣 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ られて覚えず人をして坐に同情の涙を落とさしむ、特に平八が生きて知友の ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ 久太を失ひたる明る月、此の死して已に亡き知友たる、厳師たる藤樹と幽明 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ 域を異にして語るに於いては其の満腔の感慨、恐くは筆にも、口にもくし ・・・・・・・・・・・・ 難きものありしに相違なし、 平八は既に藤樹書院を辞し、帰程に上ほり、大溝の港より舟をる、門生二 人家僮一人と、都合四人の外、亦た同舟の人なし、舟は湖心指して出で行き ぬ、直ちに坂本に向はむとするなり、其の間、水程八里ばかり、朗らかなる 日は、風なき波に映し、席の上を行くが如く、油の上を馳するに似たり、か                 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ くて小松の近傍までは進み来れり、忽ち見る天の一角、笠大の怪雲渤とし ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ て湧く、湧きたる雲は見る/\散じて天地黯澹、大空港捲き来る北風は湖水 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ めぐりの山々に激し、嶽鳴り谷唸なり、逆巻く浪は殷々々百千怒馬の陣を ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 衝くが如とく、数仭の雪山前に崩づるゝがと如とし、あたりの南船北船、皆 な已に逃れて影だに見えず、三尺ばかりに低く帆を挂け、逆巻く荒浪ものと もせず、勇往直前、風負ふ舟は箭の飛ぶ如くに、はや鰐津まで来りけり、


山田 準
『大塩中斎』
その35




寥々
(りょうりょう)
ものさびしい
さま

崢エ
(そうこう)
山や谷のけわ
しさ































殷々
大地を揺るがす
ような大きな音
が鳴り響くさま


『大塩平八郎』目次/その61/その63

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