琵琶湖上
の大風濤
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院畔古藤花尽時。泛湖来拝昔賢碑。余風有似比良雪。
流滅無人致此知。
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藤波の花ばら/\と墜ちて声あり、四辺人もなく、物もなく、寂として寥々、
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唯比良山の一角、崢エとして秀で、寵として峙ゆるを見るのみ、平八が此
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の間に竚立し、盤桓し、如何に低徊去る能はざりしものありしかば、思ひ遣
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られて覚えず人をして坐に同情の涙を落とさしむ、特に平八が生きて知友の
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久太を失ひたる明る月、此の死して已に亡き知友たる、厳師たる藤樹と幽明
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域を異にして語るに於いては其の満腔の感慨、恐くは筆にも、口にもくし
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難きものありしに相違なし、
平八は既に藤樹書院を辞し、帰程に上ほり、大溝の港より舟をる、門生二
人家僮一人と、都合四人の外、亦た同舟の人なし、舟は湖心指して出で行き
ぬ、直ちに坂本に向はむとするなり、其の間、水程八里ばかり、朗らかなる
日は、風なき波に映し、席の上を行くが如く、油の上を馳するに似たり、か
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くて小松の近傍までは進み来れり、忽ち見る天の一角、笠大の怪雲渤とし
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て湧く、湧きたる雲は見る/\散じて天地黯澹、大空港捲き来る北風は湖水
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めぐりの山々に激し、嶽鳴り谷唸なり、逆巻く浪は殷々々百千怒馬の陣を
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衝くが如とく、数仭の雪山前に崩づるゝがと如とし、あたりの南船北船、皆
な已に逃れて影だに見えず、三尺ばかりに低く帆を挂け、逆巻く荒浪ものと
もせず、勇往直前、風負ふ舟は箭の飛ぶ如くに、はや鰐津まで来りけり、
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山田 準
『大塩中斎』
その35
寥々
(りょうりょう)
ものさびしい
さま
崢エ
(そうこう)
山や谷のけわ
しさ
殷々
大地を揺るがす
ような大きな音
が鳴り響くさま
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