Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.6.8

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その64

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

知友に一代の翹楚多し(12)

管理人註













比叡山巓
の晴嵐

明朝黎明に出で、晴を趁ふて比叡山に登り、四明峰の巓を窮はめ、俯して琵                                ・・・ 琶湖を下瞰すれば、昨日魚腹に葬られむとせる、険所今跟下に在り、一湖風 ・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・ 波なく、瀲洋々一大円鏡の如く、東西皆其の嵐光をし、漁舟賈船、 ・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・ 北指南駛、前者喚へは、後者膺へむと欲し、白帆真帆千点万点、碧油々の上 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ に散乱碁布する状、宛然たる一幅の活画図なり、是を眺むる門生、昨日の憂 愁危懼は夢にて候らひしか、亦た天の我が師を譴し候ものかと、問ひ出でけ                   ・・・・・ ・・・・・・・・・ れば、平八は澄まし切つたる面持にて、さに非らず、決して夢には候はず、 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ あれこそ真境に候ひけれ、天譴には候はず、天の我を金玉にし候ものにこそ ・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・・・・・・ 候へ、若し彼の変に逢はずで止みなば、真の良知、真の誠敬は窮め得候はざ ・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・ りけらし、実に彼れ夢にも候はず、天譴にも候はず、真境にこそ候へ、我を ・・・・・・・・・・・・ ・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ 金玉にせるものにこそ候へ、然らば、禍には候はずで、福にて候ひけり、と て更に眼を転して京師を俯し、指して語りけるは、今この城邑凡べて我が杖 屡の底に候で、蜂窩と蟻垤との如くに見へ、貴き賤きおしなべて、棲もふと           ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・ ころにこそ候へども、某はこゝに一望候で、却て魯を小にするの趣き相分か ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ り候、此の趣よく/\味はれて然るべく存ずるとて、一詩を賦したりけり、   四明不独尽湖東。西眺洛城眼界空。人家十万塵喧絶。   ・・・・・ ・・   只聴一禽歌冷風。                     ・・・・・ ・・・・・・・ と、一首吟破して下路を取り、京師に入る、三十六峰は、旧に依つて紫に、 ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 鴨川の水は依然として明なり、而して山紫水明処主人たる頼久太郎、今や乃 ・・・・ はち亡し、平八今昔の感に耐えずして、逆旅に在り、京人は日に涼を趁ふて 游行す、平八はこゝに、山陽を見ずして却つて、擾々たる騒人、墨客が、徒 に東に流浪し、西に瓢逸するの状を目撃し、こゝに一絶を賦せり、            ○  ○  ○ ○ ○ ○ ○ ・・・・・・・   洛陽城裏暫淹留。未英豪只是憂。始知此地謝公夥。   ・・・・・ ・・   日日東山携妓游。 ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 山陽去つて後山陽なし、平八は英豪を見ずして空しく帰坂せり、











































石崎東国
『大塩平八郎伝』
その53


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