胆服する
が如く
液をなふ
るが如し
と |
其の「数條御実得之事共、使 人感発興起不 勝 欣躍 、拙老ナト可 及所ニ非
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ズト奉 存候、就中大虚之説御自得、致 敬服 候」と曰ひて、先つ感服の意を
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表し置き、「認 賊為 子之様ニ相成、難 認事ト存候、貴君精々此所御着力被
成候得ハ、即御得力、爰ニ可 有 之ト存候、尚モ実際ニ御工夫被 着カシト祈
入候事ニ御座候」とて平八に注意を与へ、扨て「都而之教授ハ、並之宋説計
ニ候、殊ニ林氏家学モ有 之候得ハ、其碍ニモ相成、人之疑惑ヲ生シ候事故、
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余リ別説モ唱不 申候事ニ候」とて、自己の別説を立てさる故を述べ、「主張
之念を リテ、公平之心ヲ求メ度候」と一歩を進め「返ス/\モ、其実無 之
而者、何学ニ而モ、埒明不 申、タヽ自己之実ヲ積候外無 之トノミ心掛候得
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共、扨々十カ一モ、存意通ニ参ラス、浩嘆に堪ス候」と自から謙遜して暗に
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平八が一家言を主張し、一学名を標幟するに対して、反省を望むの意を示し、
其の次ぎに「御剳記中、前人未発之條不 一而足 候得共、堯舜之上善無 尽」
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と造詣の程度に限りなきを諭し、さて終りに「殊ニ御年齢強壮之御事、此後
幾層御長進可 有 之歟、不 可 測ト御頼敷存候事故、申迄モ無 之愈益御深造
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之処、翹望ニ堪ス候」と大に望を属せり、其の或は服し、或は戒め、或は譲
り、或は諭とし、一揚一抑這老是れ個の野孤精其の老手腕驚くに耐えたるも
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のありと雖ども、要するに大に平八に望を属するが故に、其の 綣老婆心切
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一にこゝに至りしものとせば、其の平八に服するものある、亦た昭として明
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けし、一斎は実に平八の知己なりしなり、其の他平八が文書相通し、議論相
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交ゆものに一にして足らず、大抵皆な当代の英髦翹楚なりしと雖とも、特に
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山陽と一斎とは其の傑出中の傑出せるものなりしなり、山陽は夭拆す、平八
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の末路は之れを知らず、一斎は寿を以つて終ふ、平八の覆敗果して其の夙に
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平八の為めに慮りし所と符節を合するが如きものあるに於いて、其の嘗つて
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大に望を属せしと同時に、又た大に平八の為めに惜むところありしや明白な
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り、一斎は実に夙に平八を看破せるものと謂ふべし、其の他斎藤拙堂も亦た
平八と文書相通せり、亦た当代の大家なり、
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幸田成友
『大塩平八郎』
その175
『洗心洞箚記』(抄)
その19
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