Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.7.10

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その76

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

天保の饑饉(8)

管理人註











王覇衝突
の観念

此の危急の砌に臨み、傍観者さへ、かくまで肺肝を挫き候に、当局の奉行、 何とて速かに賑恤の策を決行せざる、けしからずと、独り怒鳴て、また/\ 封事認め、奉行宛てゝ其の姑息を責め、緩慢を詰り、且つ京畿飢特に甚だし、 ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ 九重の楓宸、今ま何の状たるを知らず、畏れ多きことゞもなり、世に民に代 ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○  ・・・・・・・・・・・ へ難き、此の一天万乗の 御一人を如何とかする、速かに稟米を開きて大に ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ 賑恤の策を帝畿に施こすべし、一刻も躊躇すべからずと論じたり、而かも返 答の内意もなく、採用の気色も見えざれば、養子格之助をして人を介して詰 らしめしに、但だ大坂の財政は、汝等が知らむところにあらず、関東の米穀 も、此の倉庫に待ち、又た此の地の富豪に俟つ、台命によらずむば、臨機の 処置、某等が独断に決行せらるべふも候はず、且つや明年新将軍家慶台職を 紹かせ玉はるとの内命ありたる今日、それに対する庶般費目の財源は、亦た 大坂に覓めらるべきは必定、之れが準備は、某が職として当然今になさゞる べからざる次第、政道の機密は、下賤の者共が窺ひ知るべき儀にもあらずと の、澄まし切つたる返答、一応道理もあり、又た当時の時務をば洞観したる の言葉なれども、業已に封事を採用せず、又た平八を蔑視し、芥視するの語                                  ・ 気挙止なるからに、伝へ聴きたる疳癪強き平八、眦裂けて眼電の如とし、然 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ らば奉行は将軍を以つて 上御一人より重きとなすもの、関東を京師より大 ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ 切となすもの、大義名分を顛倒するものにこそ候へ、黙して置くべき儀には ・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あらず、奉行が賑恤せぬならば、某が窮民を引き受けて彼の富豪大賈共を説 ・・・ ・・・・・・・・・・・・・  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ き勧め、立派に此の策実行し呉れむと、平八が脳中には早やく王覇衝突の観 ○ ○ ○ ○ ○  ・・・・・・・  ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 念湧沸せり、平八は一方には、 槐宸の危急を惟ひ奉り、一方には下民の困 ・・・・・・ ・・・・ ● ● ● ● ● ・・・ ・・・・ ● ● ● ● ● ・・・  阨を思ひ遣り、一方には王なる観念を捧け、一方には民なる観念を捉へ、勤 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・  ● ○ 王的の気と平民的の気と併せて、之を一口に吐き去らむとはせり、王は ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ 社稷の淵源、邦土の主宰、民は天下の根本、邦家の基礎、而して此の王と此 ○ ● ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○    ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ の民とがかくまで、困疲窮通せるに、当局は之れが賑恤をも、救済をも計ら ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○  ・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・ ざるとは、奇恠千万、一奮励彼の鴻池、三井の輩を語らひて、此の義侠的事 ・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・ 業を実行し、大義も弁せず、本末をも知らず、緩急の節を失ひ、前後の序を ・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・ 愆まる、彼の俗吏共、まのあたり其の魂つぶし呉れむと、一縷の希望を、平 ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 民の御方なる三井、鴻池等の富豪大賈に繋ぎて、猶ほ一大飛躍を試みむとは ・・・ 策せり、


幸田成友
『大塩平八郎』
その102


楓宸
(ふうしん)
天子のいる宮殿





















覓(もと)め














































愆(あや)まる


『大塩平八郎』目次/その75/その77

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ