Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.7.11

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その77

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

天保の饑饉(9)

管理人註












富豪連合
義捐の策
成らず













































王畿賑窮
策窮民救
拯策を如
何せむ

此の期図を抱ける平八、何かは以つて躊躇すべき、其の儘出てゝ、鴻池、三                               ● ● ● ● 井の主人指して駈け行きたり、然り而して、平八が一大期図たる王畿賑恤、 ● ● ● ● 窮民救拯の策は、不幸にして亦た富豪大賈の連合義捐を見るに及ばして、空 しく画餅に帰したりけり、鴻池も、三井も、凡へての富豪大賈は、今や奉行                  ・・・・・・・ ・・・・・・・・・ が平八の封事を採用せざると聞けり、奉行と平八とは、柄相い容れすと聞 ・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ けり、奉行は権力を有し、平八は威力を有す、一は法律的制裁を有する権力 ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・ なり、一は道徳的制裁を有する威力なり、法律的の制裁は眼前に逼り、道徳 ・・・・・・・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・ 的の制裁は不可視的なり、一指目前在。泰山不可睹。右を取らむか、左を採 ・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ らむか、甲を撰はむか、乙を択はむか、果然として彼等は法律的制裁を有す ・ ・・・・・・・・・・・ る、奉行の権力に畏伏したり、彼等は平八を翼助し、賛成するに於て、如何 なる奉行の逆鱗に触れ、赫怒に逢ひ、如何なる法律的制裁を受け、如何なる                                  ○ ○ 刑辟に遇ひ、如何なる苦痛に遭はむかを慮れり、躊躇決せざる彼等は、終に ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 平八の策を翼助し、賛成するを拒まむとせり、而かも断然之を拒むは、なし 得べきにあらず、きに業已に同情を表し、同意を示し置きながら、今に拒 絶するは彼等争でかなし得べき、其の名に服し、其の威に伏する彼等争でか 平八の面前に、男らしく拒絶の意を語り、其の実情を打ち明くるの勇気あら むや、彼等は鼠の如くに遁れむとせるなり、言を左右に托して決せざるなり、 以前と全く打て換はりたる気色見て取る平八、争でか怒らでや止むべきぞ、 平八は赫として、町人共の言を二三にし、一身一家の私禍を畏れて、国家民                                 ・・ 人の危窮を救ふをなさず、漫に奉行の下に平伏するの懦弱なるを憤り、今は ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 天下に我が御方として、此の重大なる切望なる王畿賑恤窮民救済の策を賛成 ・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・ し、翹翼し呉るゝものは亦た見るべからず、吁吾が道非なるかな、吾れ安く ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・ にか適帰せむと、今や平八は外に向つて其の策の実行を賛成し、翹翼するの ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・ 御方を覓むるを止めたり、平八は茲に内に向つて其の順良なる、剛果なる、 ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・  ○ ○ ○ ○ ○ 団結力あり、活動力ある、御方を其の御跟下に向つて発見せり、果然として ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 平八は其の洗心洞三千の子弟を駆つて、叱咤、其の賑恤策を実行せむと ○ ○ ○ ○ するなり、而かも平八はたとへ牢騒不平、の気溢らすところなしと雖ど も、未だ直ちに叛旗を翻へして、二万の民戸を一炬に附し去るの志ありしに         ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・ もあらざるなり、彼れは此の堅固なる御方に信任して、一朝事あるの日、自 ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 己の学問に殉し、自己の良知に殉せむとは決心し居たるなり、而かも奉行の 姑息なると、富豪の冷淡なるとは、平八が固より憤懣傍観するに禁ぜざると    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ころ、平八は今や満腔の沸騰せる烈を抑へて、冷静に、恬澹に、洗心洞の 教育に、専心一意、従事鞅掌せり、


幸田成友
『大塩平八郎』
その102














逼(せま)り








刑辟
(けいへき)
刑罰






























(ああ)


覓(もと)め










(いんお)



(こうそう)


『大塩平八郎』目次/その76/その78

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ