Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.7.12

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その78

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

天保の饑饉(10)

管理人註












神仙的生涯

志を当世に獲す、世を憤り世を罵るもの、多くは却つて冷静に、却つて恬澹 に、超然として、出塵の仙骨を然たらしむ、平八業已に策用いられず、術 行はれず、悲憤淋漓の極、今や其の熱情の烈を和らげ、其の熱血の余瀝を 泄らし、以つて其の鬱を散じ、其の悶を排せむが為めに、神仙的生涯を始め    ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ たり、大飛躓を試むるものは、先づ大沈静をなす、尺蠖の先づ屈するもの、 ・・・・・ 即はち是れ、 平八は今や吟藁を肩に挂げて、山川清淑の境に向つて、直ちに天然の精霊に 触れ去らむとせり、彼れは門生を挈へ、家僮を提げて、摂の甲山に登ぼれり、 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・ 石に踞して闔国山海の形勢を下瞰し、矯々然として天下を小にし、宇内を ・・・・・・・・ 蔑にするの概あり、   曾游二十二年前。林壑再尋依旧鮮。今日思深似前海   彷徨不独為詩篇。 平八の胸中には、鬱勃たる豹韜まるなり、今日思深きこと眼下の海よりも 深かし、彷徨徘徊する能はざるもの、豈に翅に詩句推敲、未だ成らさるが為 めならむや、居然として平八は早やく殺気を帯ひ来れり、   人随無事明時。柔脆心腸如女児。却衝秋熱山険。   誰識独醒愼独知。 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 神仙の如く倦游せる平八は、甲山絶嶺に立つて忽ち一世を罵倒し始めたり、 ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 平八は竟に所謂江湖の遠に在つて、其の君を憂ふるもの、如何に羽化登仙せ ・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ むとするも、畢竟国家民人は其の胸中より抜除するを得ざるなり、 平八はこゝに一種の神仙的方向に向つて更に突進せり、彼れは其の一生の心                                   血を灑きたる洗心洞剳記を取りて、之を伊勢の大廟なる神庫に奉納せり、平 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 八は以つて在天の 神霊に其の丹誠を質せむとするなり、而して更に去つて、 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ 一本を不二山頭の石室に蔵め、以つて天地の精霊に其の赤心を愬へむとはせ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○  ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ り、世に容れられず、世に用いられざる平八は、今や其の丹誠を神霊に向つ ・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ て質し、其の赤心を神霊に向つて愬へむとはするなり、


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その85





泄(も)らし


尺蠖
(せきかく)
しゃくとりむし


挂(かか)げて





闔国
(こうこく)
全国















(はね)





















灑(そそ)き







丹誠
まごころ



愬(うつた)へむ


『大塩平八郎』目次/その77/その79

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