Я[大塩の乱 資料館]Я
2016.7.25

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』 その81

国府犀東(1873-1950)

(偉人史叢 8)裳華書房  1896

◇禁転載◇

救民の幟影(2)

管理人註





蔵書を鬻
いて窮民
の念を救
ふ






































同志を団
結する

                             ・・・・・ 而して其の月下旬よりは、恐慌の上に恐慌を加へ、飢饉に悪疫、天に叫ぶ飢 ・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ の啼き声、地に哭する死の呼び音、彼等は平八の心肝に徹し、骨髄に透り来 ・・  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ れり、平八は最早や見るに忍びずなりぬ、乃はち所蔵の珍書奇籍、汗牛充棟 の経典書巻、凡べて之を挙げて鬻き畢れり、かくして得たる二万両、之を取                                ・・・ つて窮民の前に置き、一人毎に若干金、以つて一万余人を救ひたり、一片の ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・ 黄金と雖ども、是れ皆な平八熱血の凝団、此の血を啜り、此の血を呑むもの、 ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・ 孰れか感泣に咽ばざらんや、孰れか血涙を落さゞらむや、孰れか奮励せざら ・・ ・・・・・・・・・・ むや、孰れか崛起せざらむや、而して幕吏は却つて之を忌み、富豪は却つて        ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 之を憚かる、半は熱し、半は狂したる平八、今や竟に禍福生死を問ふに遑あ ○ ○ ○ ○ ○   ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ・・・・・・・・・・・ らざるなり、利害得失を顧みるに暇あらざるなり、激して迸るものは平八の ・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・ ・・・・・・・ 熱血なり、焚えて騰れるものは平八の烈なり、熱血淋漓、之を制するを得 ・ ・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・ ず、烈猛然、之を抑るを得ず、熱血は竟に杵を漂はさむとし、烈は竟に ・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 天を焦がさむとす、殺気は匝として浪華城頭を遶くる、 平八は志を決し、一大飛躍を試みむとす、外業已に之を輔助し、翼成するも のを見ず、而して内確かに其の命令に遵ひ、其の指揮に服し、仰ぐに厳師を 以てし、敬するに大人を以つてし、従順にして而かも堅固なる、精神的団結 力を以つて凝成せる、一団の猛士群か、平八の周囲を遶つて立つことを発見    ・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・ せり、平八は此の一団の猛士群を駆つて、風雷叱叱其の抱負たる、王畿賑恤、 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ 窮民救極策を遂行し、断行せむとするに於ゐて、今や躊躇すべくもあらざる ・・ なり、猛然として一喝して起てり、起てる平八、之に随つて崛起せる幾百の 猛士、彼等は恰かも獅子王を戴いて、厳角に突つ立ち、千獅万獅一時に吼へ て、天下の虎豹犲狼をして脳破裂せしめむとする、一団の獅子児群の如く吼 ゆ、其の惨ましき突進の勢、天下何者か得て之を制せむ、天下何者か克く之        ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○  ・・・・・・ ・・・ れに当らむ、平八は早く業已に同志を団結し畢れり、洗心洞は今や、亜夫細 ・・・・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 柳の軍営とはなれり、中斎先生は今や、采配を採つて三軍に号令する大司馬 ・・・・・・・ 大将軍となれり、秘議密謀此の軍営に集まり、此の将軍を戴く一団の猛士群 は、将さに四月十日、東照宮の祭日を以つて事を挙げむとはするなり、彼等 は此の祭日を俟ち、城代土井大炊頭利位置、東西町奉行跡部山城守良弼、堀 伊賀守利堅等が、建国寺に詣つるの時を俟つて、其の不意を襲ひ、俗吏の巨                      ・・・・・・・ ・・・・・ 魁を挙げて一時に鏖殺し呉れむと期するなり、大陰謀は成れり、大団結は成 ・・ ・・・・・・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・ れり、平八幕下の猛士腕を扼し、拳を戟にして、時の至るを俟つ、獅子奮進 ・・・・・・ ・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・ の時は近けり、猛虎咆哮の時は近けり、而して一族の殺気は暗澹として茅淳 ・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・ ・・・ ・・・ ・・・・・ 海頭に横はり、幕々として浪華城頭を圧す、雷電か、霹靂か、将た噴火か、





汗牛充棟
(かんぎゅう
じゅうとう)
蔵書がきわめて
多いことのたと
え

鬻(ひさ)き










崛起
(くっき)
にわかに事が
起こること


迸(ほとばし)る





(こうそう)
ぐるりと囲む
さま

遶(め)くる




遵(したが)ひ
























亜夫細柳
匈奴征討のために
細柳の地に陣を置
いた漢の将軍周亜
夫は、軍規を徹底
させ厳重な戦闘態
勢をとった、
柳営の語源









鏖殺
(おうさつ)
皆殺し


茅淳
(ちぬ)
大阪湾

幸田成友
『大塩平八郎』
その106


『大塩平八郎』目次/その80/その82

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ