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刑は一身に止まる、連累者は暫く措き、一族を挙げて刑するは已に非なり、
而かも是れ封建専制の世、免れざるところとするも、死と共に亡ぶべき罪を
以つて、死後の人に刑するは更に非なり、若し尚ほ一歩を譲るとするも、之
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に叛逆の罪名を付するは、剴切の処決にあらず、若し夫れ矢部定謙の擬案の
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如く、大不敬罪を以つて之を問はゞ、平八は必らず地下公平の処決に感泣し
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て心を安むして暝するなるべし、而かも定謙の擬案は用いられた、焚死の平
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八は叛逆を以つて刑せられたる大辟の人となれり、平八地下或は眦を裂き、
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髪を衝き、爛々たる電目、未だ暝せざるものあらむ、而かも平八は区々たる
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虚名に拘わるの徒に非らず、自ら仁に殉し、仁に死したるもの、仁を求めて
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仁を獲たり、亦た何をか怨まむ、当年の血性男子猛士群の王たる平八郎は、
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今や浪華城外秋 鬼火飛ぶの辺に長へに眠むる、
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徳川時代に於ける社会的暗潮流に勃起せる第二回の激龍騰活噴火の原動者た
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る大塩平八郎は今や乃はち亡し、而かも暗潮流は依然として社会の下層を通
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じて流灑するなり、平八が捕捉し来れる、共産主義的観念と王覇衝突の観念
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とは愈激烈となり、強大となり、之を皷し、之を盪するに対外的観念を以て
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し、対外的観念は海外との交渉によりて愈其の強度を高ふし、共産事主義的
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観念は未だ発裂するに至らずして、対外的観念之に代はり、対外的観念と勤
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王的観念とは、竟に封建政治を仆して、大命維新の雍輯時代を現示し、堯日
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熈々として明治の清世を開らく、門閥の箝制も、格式の検束も、今や乃はち
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靡し、天下は異才の自由競争場となれり、而して天驥の往々にして、桟豆に
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伏し、槽櫪に老ゆるものあるは何ぞや、昇平時代の現象として慶すべきか、
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将た吊すべきか、吾人言ふ所を知らず、語る所を知らず、地下の平八、若し
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霊あらば、将た何とか言い、何とか語らんとかする、
独楽園即事 大塩後素
前依後倚此欄干。青翆凝 眸処々巒。方丈不 羞丈夫意。
東西南北豁然看
夏日江行即事
納涼船舸晩来繁。藻蕩不 流各酔昏。白蓮碧葦清涼処。
道遠無 人上 水源 。
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桜庭経緯
「矢部駿州と大塩
平八郎」
剴切
(がいせつ)
非常に適切な
こと
眦
(まなじり)
目尻
天驥
駿馬
桟豆
(さんとう)
馬の餌
槽櫪
板囲いの厩
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