時候御さゝはりもなく、御嬉しく存じ上候、 殿様返す/\御機嫌よく被
 為入候、
 扨此度の大変、江戸表にても嘸々御案じ入らせられ候半と、誠に/\御察
 し候まゝ、然し御勇もじ様に入らせられ候まゝ、御案じなき様に被仰上可
 被下候、
 昨日おなつ親父様、江戸立と承り、夜中更るまで認め出し候へども、今朝
 承はり候へば、廻り所多く、三月廿日頃にと申し、最早頼み遣し候間、委
 細の事は其時に分り可申候、誠に/\正雪この方の御事、火矢を相懸、大
 坂中火にて、誠に/\大事中/\筆に尽しかね候、
 然し皆々別條なく、御蔵屋敷も火の中にて残り申候、然し帰り候ても何も
 無御座、皆御すゑ御道具、御泉水と井戸へ、何もかも打込、やう/\御吸
 物椀一ツころげ居候まゝ、夫にて殿様へ御茶を上げ候仕合、皆/\むすび、
 かう/\二タ切にて命をつなぎ申候、
 私共帰り候て、やう/\汁を拵へ、一ツの吸物椀に汁を上へ、御きせにて
 御飯を上申、誠に大変一通りの火事とちがひ、とんと乱世にて、御表金三
 郎どのなど、悪党の手先の大将分の首を取、遠藤樣御組与力、殿様御連被
 成候処、是は鉄砲の上手にて、打取候首を鎗の先に貫ぬき、金三郎どの振
 廻して歩行申候、
 皆々我勝に先へ/\と計りすゝみ、戦場に向ひけるは、平生と違ひ、若者
 は少しも引退く者無之、今日なども鎗の鞘をはづし、御城の御供と殿様御
 笑ひ入らせられ候、与市も誠に身の冥加、御馬前にて討死と覚悟極めし、
 目ざましき働きを心懸候へども、仕合と一人も怪我なく候、敵おし寄、両
 方より打合鉄炮の音きびしく、御馬驚き駈出し、御口取なく前へ 殿様御
 とびおり被成候、
 金三郎も何れも御落馬か、又は鉄砲に御当り被遊候かと、御供一同こぶし
 を握り候処、直に御飛乗、御差図被遊候由、今日火矢を見申候、東さま御
 組の与力にて御座候、恐ろ敷企て、なか/\半年や一年の工みにてはなく
 と申候、妻子を刺殺し、我家へ火をかけ候へども、実は十八日に妻子は落
 し候由、厳しく御吟味故、追\/召捕られ候得共、いまだ両人は行衛相知
 れ不申、然し廿日の夜より廿一日迄、大筒度々に候処、まづ\/気遣ひな
 くと仰られ候、
 然し皆着替候て、やう/\人になり候て、みな/\顔色よくなり候まゝ、
 御案じ被成まじく候、只今 殿様御直書出候、私へも茂三郎へ一封出し候
 様、仰候まゝ、御案じなきやうと申進じ候、京都でさへ、両町奉行討死と
 の風聞いたし候事にて、かへつて殿様御吉事と存候、
 東樣は御手抜と皆/\申居候、火矢など頓て江戸へ参るべく御覧なさるべ
 く候、与市呉/\も全く怪我もなきだん、私より申くれ候樣頼み候、
 常三郎樣御夢中にて候、御機嫌よく御立のき被遊、御帰り後も御機嫌よく
 候、いやな事に御あひ遊ばし、御いとをし樣に存候、私の品/\まづ/\
 なくなり候物もなく、息才に勤め居候、親類中へあつくよろしく頼み上候、 
 御上にも御案じなき樣に仰上可被下候、今日やう/\御湯をめし、御酒を
 御奥にてあがり、直に御表へ御出、せはしき事申計りもなく候、
 東様の者御こわがり、御家中一統鎧兜にてふるへ、働らけず、此方様は火
 事具御手袋さへ御忘れにて入らせられ候と被仰候、誠に目ざましく御蔵や
 しき迄、火の中にて御座候、やう/\煙くさきも直り申候、
 悪党どもはや/\捕られ候様、神かけ念じ居候、
 飢饉の上、大火火矢にあひ、死人多く是ある由承り、すさまじき奴、其く
 せに小男と申す事、中/\正雪この方の奴と申、手下多と承り候得共、中
 々御威光にて、今に/\召捕られ候事と存候、誠に及ばぬ願ひ、此節静謐
 の御代に、馬鹿者あまり慢心と申候、あら/\めでたくかしこ、
 焼場所あらまし申進じ候、天満十一丁目より東川崎まで焼ぬけ、北は野中
 迄、天満宮并御堂三ケ寺焼失、川南は難波橋西詰より東は御城馬場先まで、
 南久太郎町辺より玉造東は野中まで焼抜、廿日暮六ツ時過より、やう/\
 火鎮り申候、天神橋落、其外よしや橋高麗橋焼落申候、 
 
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