学 説
第一綱領 ― 太虚説
吾人中斎子を読まされば、則ち止む。苟も之を読まば、必ず
其太虚主義を審明せさるべからず。太虚主義は、中斎哲学の
根底なり。中斎の書幾千万言に及ふと雖も、唯一の太虚主義
を以て之を蔽ふべし。書中横説縦説する所、皆此の太虚主義
の敷演にあらざるはなし。是れ恰も孔子の仁を説き、孟子の
仁義を説き、子思子の誠を説き、老子の虚無を説くが如し。
中斎は、太虚を以て唯一の理想と為し、終生此の理想に接近
せんことを務めたり。中斎は畢生の志願として、唯此太虚に
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帰することを務めたるものなり。故曰、嗚呼、心帰乎太虚
ハ チ カ ラン レヲ レ リ ラ ル
之願則誰知之乎。我独自知耳、と。中斎子満腔の精神は、之
に向つて発揮し、畢生の心血は之に向つて注射せらる。而し
て其書中に太虚を説くこと、精密周到、円融無礙にして更に
余蘊あることなきは、以て其造詣の深慮なるを知るべし。
吾人は、今太虚説を論ずるに当りて、初めに太虚の体を説き、
次ぎに其用を説き、終りに其太虚に帰するの工夫をを説かん
とす。
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