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苦しさうに息を切つてゐる済之助を擁した平八郎は、『事は破れた。一
瞬間を争ふ。用意せられよ。同志諸君。』と大声を放した。
一室で密談をしてゐた五六人の同志は何事が起つたかと、驚いて平八郎
の室に駈けつけた。済之助は同志に計画の破れたことを話した。平八郎は
使者を八方に駈せて同志を招いた。また百姓や人夫の集合にも力を注いだ。
『何しろ事が破れたから早くやらなければだめだ。』と、平八郎は同志と
共に、大急ぎで準備に取りかゝつた。
大塩邸は上を下への大混雑となつた。まるで火事場のやうだ。平八郎は
血気の大井正一郎と安田図書に命じて、平常からスパイ行動を匂はせてゐ
る高弟の宇津木靖矩之允靖通を叩き殺させた。矩之允は彼の最愛なる門弟
であるが、いつも生ぬるい議論をしたり、協調的態度を取つてゐたからだ。
どうして殺したかかと云ふと、矩之允が便所から出てくる刹那を、正一郎
が怒号と共に斬りつけた。
この悲壮な情況が、同志の眼前に横倒つてからは空気は妙に緊張した。
同志は勢揃をした。
(前
備) | 得物持人足一人
得物持人足一人 得物持人足一人
| 火術者 梅田源左衛門
木車大筒人足三人 | 十目筒
大井正一郎 大塩格之助 十目筒
庄司儀左衛門 | 鎗人足 鎗人足 鎗人足 鎗人足
| 大筒人足
二人 大筒人足
二人 |
(中
備) | 大塩平八郎 同助七 | 得物持 木八
得物持 金助
得物持 久助
| 同 上田孝太郎 同 杉山三平 同 阿部長助 同 深尾才次郎 同 曾我岩蔵 同 志村周平 同 高橋九右衛門 同 渡辺良左衛門 同 堀井儀三郎 同 近藤梶五郎 同 安田図書 同 橋本忠兵衛 同 西村利三郎 同 柏岡源右衛門 |
(後 備) | 人足三人 十目筒
瀬田済之助 人足三人 | 人足三人 大筒一挺
人足三人 | 持人 正蔵 具足櫃
同組屋 | 大筒 一挺 小筒二十挺 総人数 百三十余人 大筒打始東 奉行組屋舗より | 版木師 次郎兵衛 物持人足衆 猟師金助 |
同志等は全隊を前備、中備、後備の三陣に分列した。前備は大塩格之助、
中備は大塩平八郎、後備は瀬田済之助が、それ/゛\担任した。この三人
の着込みは野袴で、白木綿の鉢巻を締めた。渡辺良左衛門、近藤梶五郎、
庄司義左衛門及び孝右衛門、忠兵衛、源右衛門等は各々異つた着込みで刀
を帯びた。後陣には人夫が長持及び葛籠を担いだ。前備の先頭に軽さうな
着込みで、長槍を握り、血走つた大井正一郎が立つた。彼はこの時二十三
歳であつた。同志は天を貫く勢であつた。
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幸田成友
『大塩平八郎』
その125
幸田成友
『大塩平八郎』
その132
『塩逆述』巻之三
その25
志村周平
「志村周次」
が正しい
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