Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.6.2

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その46

丹 潔

(××叢書 第1編)文潮社 1922

◇禁転載◇

 第七節 計画は破れた (2)

管理人註
   

 彼等は時々喊声をあげた。地が動くやうだつた、群衆を収攬する目的で 向側の与力、朝岡助之丞邸に大砲を打ち込んだ。それから我が大塩の屋敷 に放火した。両方の屋敷から猛火は炎々とあがつた。忽ちのうちに附近は 煙火の海となつた。  同志はわあ/\と声を上げた。その声は物凄かつた。いつのまにか多く の群衆は集つて来た。企てられた隊陣は動き出した。群衆は彼等の後に続 いた。組屋敷をぶち壊しながら、天満橋筋へ出て右へ曲つて左に折れて南 同心町から、天神橋筋へ抜けた。それからまた左折した。  彼等は喊声をあげながら大砲を打ち放し、棒火矢を放ち、砲碌玉を投げ 散らした。彼等の通つた  【一行欠】 たら、片つ端から斬殺す企てであつた。同志がわい/\騒いでねり廻はる ので、本当に働く者が三百人ばかり出来た。中には同志の隙を見て逃げる 者もあれば、群衆を煽動する者もあつた。  彼等は天満宮を沿ふて進んだ。天神橋を渡り掛け、先きに町奉行の手が 廻つて、その端の橋板は取去られたので、仕方なく右に折れて、大川伝ひ に西下した。難波橋に行くと、そこは恰も町奉行所の人足どもが集つて橋 板の取崩しにかゝつてゐたから、追ひ払つてしまつた。無事に渡つて、左 に折れて今橋通りに出て、堺筋に至ると二手に分れた。一手はそのまゝに 進んだ。他の一手は堺筋を南に少し下つて直に高麗橋を渡つて左に折れて 進んだ。こゝは大塩派が、日頃から憎んでゐる資本家町たる北船場だ。今 橋筋では、鴻池屋善右衛門、鴻池屋庄兵衛、鴻池屋善五郎などの鴻池の一 派が堂々と甍を竝べてゐた。それから天王寺屋五兵衛と平野屋五兵衛の家 だ。高麗橋筋では三井呉服店、岩城屋、升屋などの大きな建物が空に聳え てゐるのであつた。  群衆はこれらの建物に押し寄せると、大塩平八郎は血走つた眼を動かし ながら、群衆の前に立ち止つた。 『我等庶民を苦しめた鴻池を倒せ。』と大声を放すると、子の格之助が群 衆をおしのけて平八郎の傍へよつた。 『幕府を維持してゐる資本家を倒せ。』  【一行欠】 悲鳴の方へ行くと、三四十人の若い女が、物置小屋の中に苦しさうに呻い てゐた。  熱血児の大井正義一郎は血刀を提げて小屋へやつて来た。 『この奴等は鴻池の娘や妾だ。庶民の血を吸つたのだから、殺してしまへ。 女でもかまふことはない。やつつけてしまへ。』  彼の言葉に煽動された群衆は小屋から、女たちを引き摺り出して裸体に した。さうして叩いたり、蹴つたりして、【半行欠】 天王寺屋五兵衛、 平野屋五兵衛などに属する建物、及び家をぶち毀して、有名な三井呉服店 の前に来た。また群衆は喊声をあげた。 『横暴なる資本家。』と群衆は一斉に叫んだ。  【半行欠】 平八郎は刀を振つて煽動した。  群衆はその建物に罵言を浴びせながら 【半行欠】  群衆は『万歳』と一斉に呶鳴つた。群衆を巧に利用した大井正一郎は、 続いて岩城屋、升屋をも破壊してしまつた。  これらの大資本家の建物は、猛火を上げて狂気のやうに燃えた。  鴻池屋庄右衛門の如きは百六十貫、即ち金四万両も群衆に掠奪された。  二手は猛獣のやうに散々に暴れ狂つた。一方は今橋を、一方は高麗橋を 渡つて、遂に東横堀川を東に越したが、また合して共に川伝ひに南に下つ た。こゝは内平野町の米屋平右衛門、米屋長兵衛などの所謂、米屋の一派 があるので、それらを叩き毀しながら、焼き払つて更に進んだ。







幸田成友
『大塩平八郎』
その131






豪商等所在地


『大塩平八郎』目次/その45/その47

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