Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.1.30

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その13

田中貢太郎(1880-1941)

『大塩平八郎と佐倉宗五郎』
(英傑伝叢書10)子供の日本社  1916 所収

◇禁転載◇

七 洗心洞学塾 (2) 管理人註
  

 平八郎は、かうして人に物を教へる前には、必ずまづ自分みづからが行 つて手本を示して見せた。だから、平八郎の云ふ言葉は、たとへ一言半句 でも、決してただの理屈ではなかつたから、多くの塾生達の肺腑にぴんぴ んと響きわたつた。さう云ふわけだから、ここへ入門する者は、誰れでも            皆先生平八郎の感化を享けて、純良な立派な人格者になつて往つた。  また平八郎はよく学生を集めて、かう云つた。 『偉いものになれ、偉いものになれ、偉い人間は世界の宝だ、いつでも偉                      ひもと いものは必要なものである、東西古今の歴史を繙いて見るがいい、偉い仕 事をする人間が、どんなに必要なものかが解るだらう、しかし、いくら偉         こころざ い人間にならうと志しても、一足飛びになることは出来ない、十年とか、 二十年とか、時を限るな、偉い人間になるのは、一生涯の仕事だ、そして、            じつ それはお前達の、今日一日の良知の力如何によつて別れるのだ、明日だの あ さ つ て 明後日だのと決して云ふな、人間の一生涯の仕事は明日のことではなく、 け ふ                             おこなひ 今日の問題なのだ、それには学問が大切だ、しかし、尚ほ大切なのは行だ、 偉い行と云ふのは、奇抜なことをやれと云ふのではない、お前達に一番手                   かう 近にやれるものを教へてやらう、それは孝といふことだ、孝はすべての善 行の基礎となるべきものだ、仁義とか、忠節とか云ふものも、結局はそこ から出発するものだ、偉い人間だつた人を見るがいい、みんな孝道を守つ た人ばかりではないか。』  またこんなことも、よく口癖のやうに云つた。 『お前達が偉いものにならうと思ふなら、絶えず偉い人の伝記に親しめ、 下らない小説などは決して読むな、害があつても益はない、そして英雄豪 傑の伝記を読むのであつたら、本気になつて読んで、それに習へ、それが 出来るやうになれば、もうしめたものだ、お前達は偉い人間のお仲間入り が出来るのだ。』                     かうした真実の言葉が、平八郎の口を衝いて出て来る時、塾生一同はま                    うち るで神の言葉を仰ぐやうに、しづかに心の中でいつもかう繰り返すのであ つた。 『よおし、俺も偉くならう、全世界にその名を轟かすやうな人間にならう、 永遠の大虚だ、永遠の良知だ。』  塾生達の目は、清い光に輝くのであつた。かうした平八郎の大努力は、 塾生ばかりを感化したばかりでなく、凡そ平八郎を知る人は、誰れ一人 としてその識見に頭を下げないものはなかつた。 『中斎先生、中斎先生』と云つて、誰れでも慈父の如くに慕ひ敬つた。  平八郎の著述は、彼の有名な洗心洞剳記の他に、古本大学刮目、儒門空 虚聚語、洗心洞学名学則、増補孝経彙註、洗心洞論学書略などがあつた。



石崎東国
『大塩平八郎伝』
その49

幸田成友
『大塩平八郎』
その71













































































山田 準
『洗心洞箚記
 


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