Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.2.4

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「大塩の乱関係論文集」目次


「大塩平八郎」
その18

田中貢太郎(1880-1941)

『大塩平八郎と佐倉宗五郎』
(英傑伝叢書10)子供の日本社  1916 所収

◇禁転載◇

九 平八郎の対応策 (2) 管理人註
  

『どうだ、格之助、跡部殿からは何んの沙汰もないか』  格之助が役所から戻つて来るのを待つて、平八郎は待ちかねてそれを訊 ねた。 『四五日待てとのことでございます。』  平八郎は非常によろこんだ。                         さうりん 『さうか、四五日待てと云つたか、有難い、それでは倉廩を開く見込みが あるな。』  しかし、五日が十日になつても返事がないので、平八郎は辛抱きれなく なつた。 『では、お前が明日出仕したら催促してくれ、もうこれ以上は待たれない、 焦眉の急だ。』  そして、その日格之助からの返事を待つてゐると、格之助はいつになく 沈んだ顔をして帰つて来た。 『どうだ、今日は沙汰があつたか。』 『はい。』 『おお、有つたか。』 『はい。』 『さうか、で、どうだつた、御採用になつたらうな。』 『父上、何事ももう駄目でございます、到頭あの書面は却下になりました。』 『なに、却下。』 『そればかりではございません。強いお叱りでございました、たかが一与                      ようかい 力の隠居風情の身が、天下の御政道にかれこれ容喙するとは、不届千万、 そんなことは今更云はれるまでもないことだ、しかし、今度だけは許して 遣はす、以後は屹度慎んだがよからうと、かうでございます。』 『む。』  平八郎は怒りで体が震へて来た。暫くの間は凄い程目を据えて考へ込ん でゐたが、突然彼は起ち上がつた。 『それでも、もう一度』  平八郎はいきり立つ心をぢつと押へて、書斎へ入ると、同文の意見書を 書き、即刻格之助に持たせて奉行所へ差し出さした。そして、奉行所から の返事を待つたが、幾日経つても返事はなかつた。平八郎は堪りかねて、                         ひやや 格之助を奉行所へ差し立てて催促させると、山城守は冷かな返事でこれに むく 酬ひた。


石崎東国
『大塩平八郎伝』
その90

幸田成友
『大塩平八郎』
その102


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