扨て此れから愈よ踏み込む段取りとなつた。
一 追手の方は、搦手の面々より少々引下り相越、搦手の方相固め候を
見請、西組同心案内にて、小右衛門（岡野）弥六（菊地）縫蔵（松高）
鉄平（菊地）彦次郎（内山）と申順に勝手へ立入候。其節彦次郎（西組
与力）鉄平へ申聞候は、見世口固呉候様相頼候に付、一人居残り固の所
に罷在候処、相手両人の儀に付、是へ罷越候ては手余り可申哉にも有之、
無心元存居候内、岡村桂蔵相見へ候に付、此者を相頼、傍に為控申候。
一 案内の同心、五郎兵衛妻を呼出し、気分落付候様、背中を撫おろし、
額に手を当、耳元へ寄り、最初相談の通申含候処、右妻肝を消候体にて
有之候得共、先に立罷越、何も附参り候処、庭口よりモシ＼／と声掛候
を聞付、平八郎庭の小路次を明け、召捕の者を見請、直様建寄せ、其後
又候小路次を明け、平八郎脇差を抜、声掛ながらさし出し候に付、（原
註 是は召捕の者を威し候存意に可有之や）同心儀木太刀の先にて、脇
差少々打敲候間、何も路次口へ押詰候処、又候〆寄候に付、路次打毀、
右口に彳み、言葉争ひいたし。小右衛門より大塩平八郎とも被言候者、
臆病至極の振舞、是に罷出縄に掛り候へと申候得ば、只今罷出候旨相答、
其後鉄砲打候旨呼り候声相聞へ申候。
一鉄平儀は、前書入口を固め居候処、家内上を下へと騒動仕、家内子供
下人等も立退最中、彼者両人身構致し候儀にも可有之、夫に付て此固〆
外し候迚、気遣ひ有之間敷と存、小路次の方、縁頬に彳候処、言葉争ひ
三ケ度承り、際限も無之儀と、路次口同心の傍え罷越、踏込可申哉と申
聞候処、同意の趣相答候間、直様小路次を潜り、半棒振上げ、正面の戸
を打毀候処、右破より火気燃出候得共、勢ひに任せ、頻に打毀申候。尤
火薬を相用候哉、合薬の匂ひ仕候様相覚申候。
一 鉄平小路次を潜り候と、同心並小右衛門、弥六、縫蔵一度に踏込、
同様雨戸障子暫時に打破り候処、平八郎儀は、脇差を抜向ひ、壁際に彳
候得共、何分入口火気強く、踏込候儀も難相成、棒にて火を払除け候内、
平八郎脇差を以、咽吭を横に突立、右脇差を投付候処、弥六頭の辺より
襟袖のあたりを摺通り、携居候半棒に当り、少々切込付申候。尤跡にて
そゝ
見請候処、頭襟袖手首等へ血灑ぎ有之候。実は格之助未練を起し候を、
平八郎殺候哉に推察仕候。
一 格之助儀は、最初自殺致し候儀と相見へ、正面障子の内に、人形チ
致候場に、衣類体の品掛有之、右傍に戸障子と相見へ、建有之候障子に
為持立掛、右の品々十分火移り罷在候処、戸障子悉く打毀候故、持合無
之、庭へ落、右火気強く、何れも堪兼、我れ先にと小路次外へ立退、最
早両人自殺慥に見届候儀に付、消防第一に可仕趣、誰発言と申儀は不相
知候得共、裏表より手術を尽し消防仕候。
一 縫蔵儀脇差を投付候趣、鉄平へ申聞候間、左候へば未庭に可有之と
両人立戻り候処、小路次内四五尺斗向に相見へ候得共、火気烈敷、立入
兼候間、棒にて追々かき寄候処、最初案内の同心罷越申聞候は、同心所
持の木太刀には鍔も有之に付、右に引掛取可申候間、任其意、同心（人）
手に取、平八郎脇差に相違無之趣申聞、同人持帰り申候。右脇差は一尺
八寸程にも相見へ、柄は茶糸巻縁頭等相覚へ不申候。
一 搦手の面々は、追手の面々よりは少々先に罷出、前書七人の人数二
つに仕、逃道を開き、両側に並び相待罷在候処、少々手間取候に付、内
の様子如何可有之哉と、纉太郎（安立）勇之助（遠山）正五郎（斎藤）
申合、迯道より戸口迄常に罷越相伺候処、何か人声仕候間、最早迯出し
候儀に可有之哉と、又々三人共立戻り、聊相待申罷在候内、座敷にて鉄
砲打候旨、頻に呼はり候声相聞へ候間、又候三人の者、戸口へ罷越、透
間より見請侯処、火燃上り候。火陰に坊主頭ちら＼／と相見候に付、扨
は火を掛自滅仕候儀に可有之旨、肇（時田）啓次郎（芹沢）、並同心へ
も声掛、戸打毀掛り候処、兼て用意の儀に有之哉、殊の外手堅く、漸々
打破り立入候処、最早火気盛に相成、父子共自殺の体に付、甚残念に奉
存候。責て死骸にても取出し、後日の証にも可仕と、右三人申合、夫よ
り消防相働罷在候処、内山彦次郎罷越、最早火気烈敷相成候間、消防人
足え相任せ呉候様申聞候得ども、死骸も手元に有之事に付、前文の所存、
勇之助より相答置、先最初死骸に十分水打掛け、夫より追々消留候内、
消防人足相集り、五時過（午前八時過）消。
御威光何も冥加至極難有仕合奉存候事。
右は混雑中之儀にも御座候間、闕漏仕候廉も可有御座と奉存候得共、何
も相談仕候上、覚罷在候荒増相記申候。
以上土井家家来の面々の報告書は、彼等に取りて都合よきものに相違なきも、
大体に於て、前掲今井克復談話[参照、六六]と一致してゐる。只だ相手は二
人、此方は十四五人、而して終ひに其場に拒み込み得ず、押問答の際に、遂
ひに大塩父子をして、自殺するの余裕を与へたのは、未だ必らずしも彼等の
手柄として、誇る可きものではあるまい。
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大塩父子自殺につき安堵触
口 達
去月十九日、市中放火乱妨および候大塩平八郎並同人忰大塩格之助儀、
油掛町美吉屋五郎兵衛方に忍候風聞有之、為召捕組之者差向候処、両
人共致自殺相果、其外徒党のものども追々召捕、又は自殺いたし候間、
其段令l承知、無掛念普請等もいたし、諸商人共無危踏商売可致候。
右之趣三郷町中不洩様可申聞候。
酉三月 [大阪市史]
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