大身小身に限らず侍共可覚悟條々
一、奉公の道油断すべからず。朝寅刻に起き候て兵法を遣ひ、食を喰ひ、弓を射、鉄炮を打ち、馬を可乗候。武士の嗜能き者には別して加増可遣候事。
一、慰に可出存候はゞ、鷹野・鹿狩・角力、斯様の儀にて可遊山事。
一、衣類の事、木綿・紬の間たるべし。衣類に金銀を費し、手前不成旨申者可為曲事、不断身上相応に武具を嗜み、人を可扶持、軍用の時は金銀可遣候事。
一、平生傍輩附合客一人、亭主の外咄中間敷く候。食は黒飯たるべし。
但、武芸執行の時は多人敷可出合事。
一、軍礼法侍の可存知事、不入事美麗を好む者可為曲事候事。
一、乱舞方一円停止たり。太刀を取るは人を斬らんと思ふ。然る上は万事は一心の置き処より生ずるものに候間、武芸の外乱舞稽古の輩可加切腹事。
一、学文の事可入精。兵書を読み忠孝の心掛専要たるべし。詩・聯
句・歌を詠む事停止たり。心華奢風流に成りて弱き事に存候へば、
いかにも女の様に成るものにて候間、武士の家に生るゝよりは、太刀・刀を取つて死する道本意なり。常々武道の吟味をせざれば、潔き死は仕憎き者に候間、能々心を武に極む事肝要に候事。
右の如き三徳を兼備へし名将にて、諸人其霊を尊び、神と崇めぬる
程の人なれども、其子広忠至つて愚人にして、其家滅亡するに至る、可惜事なり。
|