其次に幕開くと、足利将軍御殿の掛りにて将草出座、局頭三津ノ局に付いて、小塩貞八帰参の事を願ふ由を云ひて、程よく御前へ執成をなす。将軍暫く思案有り、「外ならぬ其方が執成なれば、許して帰参を致さすべし。此後急度相心得、決して諌言致さゞるやう急度申渡すべし」との上意故、三津ノ局大悦びにて、直に貞八を御前へ召出し、上意の趣を三津ノ局より篤と言渡し、御目見をなし、将軍よりも直の上意にて、」此後急度相心得、神妙に相勤め、決して無用の諌言いたすべからず。許し難き者なれ共、外ならぬ三津ノ局が執成故許遣す」となり。
貞八大に悦び、平伏して之を謝し、直に開き直つて種々の諌言をなすにぞ、将軍大に叱り、「帰参申付けたる其席に於て、又もや入らざる諌言、今は其儘捨置き難し、手討にせん」と言儘に立上りて、太刀に手を掛け、已に之を抜かんとする処に、「先づ暫く御待あれませい」と、花道より声掛け、阿曾部山城悠勇々出で来る。
貞八は少しも騒がす、「諌言御聞入なきに於ては、死は素よりの覚悟なり」とて、少しも動ずる事なく、始終平気の体なり。阿曾部将軍に向ひ、「委細はあれにて承る。重々不埒の貞八、御憤は御尤なれども、御前の御手を下されるはいかにしても余りに勿体なし。私に御任せあるべし」とて之を止め、貞八に向ひ、「只今御手討に相成る処なれども、古傍輩の好を以て、これを申し宥め遣す間、此処に於て切腹いたすべし」と申渡すにぞ、
貞八大に悦び、「素よりかく御諌め申上ぐるの上は、御用ひなきに於ては、御手討になる事は覚悟せし事なるに、士道を以て切腹被仰付けられるゝ事、全く傍輩の好を以て貴殿の計ひ忝し。切腹すべし」と其座を去らず、差添を抜き腹に尖立て、左より右へ切廻し苦しきこなし有るを、阿曾部山城大に悦び、之まで邪魔に成りし奴を殺しぬれば、今は我が思ひの儘なりと云ふ様子にて、こゝに於て忽ち反逆の色を顕す。
貞八之を見済し引廻せし差添を取直し、後ろ様に山城を突貫き、左の手にて懐より血だらけになりし猫の死骸を取出し、側へに之を打付け立上りて、山城を切伏せとゞめを刺す。
之に依つて御殿大に騷動し、大勢の捕手貞八を取巻き、大取合と成ると遠攻にて太鼓聞ゆ。これを相図に桟敷場・舞台の差別なく、思ひも寄ざる処より頻に鉄炮を打立て、大軍攻寄せ大合戦となり、御殿を打砕く。
正面の襖ばた\/にて倒るゝと、向大坂市中の体にて、一面の火にて大焼打の体。
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