暫く取合有りてばた\/にて道具替ると、天王寺の東御勝山の体、
夜の景色にて至つて物凄し。
小塩貞八乱髪にて敵を切抜け、血刀を引提げ此処へ出来り、市中の焼くる様子を眺め、一息つきぬる処に、どろ\/にて貞八が後ろに三津の局が姿顕れ出で、貞八々々と呼立つるにぞ、振返りて何事と問ふ。局貞八に向ひ、「今迄は深く隠せしが、汝は我等今川家に仕へし時、誰とやらんに忍び合ひ懐妊せしが、世間奥向を憚り、生み落すと其儘汝を捨てしが、後の印に斯様々々の物をば添へ置きぬ。其方に其覚えあらん」といへるにぞ、
貞八大に驚き、何事も符節よく合ひぬるにぞ、扨は誠の母なりと打解けて談じ、「将軍は今川家の讐なれば、其讐を報ぜよ。今汝に授くる物有り」とて一巻を取出して、之を手渡しす。之切支丹の妖術の巻物なり。之を渡し何かと言残し、暫くすると又どろ\/にて、局其処へ倒れ伏すと其儘白骨となる。之 先年大塩が戴許せし切支丹豊田貢が事を取組みしなりと云ふ事也。
遥か脇より龕燈灯燈を以て、其始末を始終見て居る者有り、之を宇治山藤三郎と云ふ。貞八と顔見合せ、双方共無言にてこなしありて、其儘幕なり。
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