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中斎の氣魄風格を知るに就いては、池田草庵によつて有益な記事が伝
へられた。草庵は之を中斎の門人、讃岐多度津の人、林良斎に聞いたと
いふ。
池田草庵聞書
大塩中斎は平生精神氣魄極めて盛なり。時々昼夜寝ねざるもの十余日、
精神故の如し。常に酒を飲まず、。飲めば即ち斗半を尽して、平日に
異るなし。飯は一度に十杯位。およそ路を行くこと一日に三十里。朝
は常に八ツ 午前二時 に起きて天象を観、門人を召して講論す。冬日
と雖も戸を開いて坐す、門人皆堪へず、而も中斎は依然として意とな
さず。その氣魄の人を圧する、門人敢て仰き観ず。その家に在るや、
賓客の来ること虚日なく。又自ら立つて門人に武技を教ふ、終日多事
なり。而して其の読書該博なること此の如し。抑も又怪しむべきなり。
又た津藩士で中斎門下なりし早崎岩川といふ人の記録には左の如くあ
る。
早崎岩川筆録
中斎先生の其塾生に教ふるや、常に出衙の前に在り。天未だ暁けず、
塾生悉く講堂に集る未だ幾くならず、先生、手に大刀を提げて之に臨
む、凛として犯す可らず、塾生俯伏仰ぎ見るものなし。講了つて家に
帰るにで、精神尚ほ奮興して終日倦怠に至らず、其の何の故たるを
知らざる也。
礼記に曰ふ「師厳にして道尊し」と、先生、師教の厳なること右によ
つて想ひ知らるゝのである。
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石崎東国
『大塩平八郎伝』
その49
(およん)で
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