Я[大塩の乱 資料館]Я
2018.4.30

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「大塩の乱関係論文集」目次


「中斎の人格」
その7
山片平右衛門

『片つ端から−迷舟遺稿集−第1巻』山片重次 1931 所収

◇禁転載◇

 管理人註
 

中斎の生涯は我儘に育つて誰れ憚らず振舞ひ、最期も人手にかからず華やかであ つた。其して其人物や事蹟の割に大名を遺したのである。此人の碑は北野浜村の 共同基地に建つてある。 こゝまで綴つて何んだか物足らぬ心地がするので余談として今少し続けて見る。 大塩は囲ひ者を持つ程の余裕もなく、又其んな好色漢でも無かつたが数人の外妾 があつた。何れも可なりの家庭で育つた後家や娘で、中には姉妹共に関係したの もある。尤も其頃名代の学者であつた中井履軒、竹山、両名の中で姉を妻とし妹 を妾としてゐたこともあつたので、此時代では別に珍らしくも無く、人格も傷け ねば、嫉妬も起らず、何れも円満に暮したのである。由来両性の純愛を以つて社 会成立の素因と眺めた道徳的見方と、種と畑を識別して血統の断絶を戒めた儒道 の教とは、根底が違ふから只其事実が左様であつたと認めて置くだけのことであ るが、大塩が峻烈時人を驚かしたのは其頃の平凡時に当つて賄賂の行使者を厳罰 に附したのと、例の貢事件位のことで其功蹟の過半は隠れたる善行者を求めて賞 を与へたのと、科人の情を汲んで放免したことが主もである。又其末路の壮烈悲 惨も理に弱くて情に強かつたからで、詰りは永遠の大事よりも眼前の小事に火熱 する質で、其峻烈なる点も狭量に発したのであつて、其心性は全然婦人的であつ た。だから悪と異に対して少婦の嫉悪で臨んだので、又殆んど其遺著無きも事を 思索するなどの冷静を持た無かつたからである。 実際大塩は遠くから視れば峻烈だが近く接すると懇情溢れて離るべからざるもの がある。其して儒道の師は精神の感化が目的であるから、其教に接した人達の心 服が家族に及び、親しく是等人々の家庭とも往復を重ぬるに連れて、色々の事情 の下にある肩のわるき若き婦人の敬慕が理を脱して情に流れ、又其れを拒む程の 冷酷は至情の人に為し得ざる処にて、思はぬ懇情が結ばれたことは無理からぬこ とである。 是等の婦人の中で馴染んでゐた女があつて吟味中に男の子を生み落し、謀叛人の 種だと言ふので流罪の名義で乳母付のまゝ薩摩の藩士が貰ひ受けた。 維新の頃に薩州の志士で中村半次郎と云ふ勇将があつた。伏見鳥羽から上野戦争、 会津奥州征伐に転戦して毎時殊功を樹て、後に桐野利秋と改名して陸軍少将の栄 職を奉じ、先帝の侍従も勤め、明治六年の征韓論で西郷隆盛と共に野に下つた。 佐賀の乱で刺された種田少将は、桐野が私学党に投じては無為に済まぬと云つて 警戒を怠らなかつたと云ふ。果して西南戦争が起り、薩軍は全国の兵を向ふに廻 して壱ケ年程勇戦した。実際此戦争は桐野が発意で初めから仕舞まで薩軍は桐野 が指揮してゐたので、西郷は唯看版に押し立てられたばかりであつたと云ふ。城 山の陥落で西郷も桐野も戦死したが、大塩の忘れ形見で薩摩へ流された孤児は此 桐野其人であると言ふ風説が其頃に行はれた。事実は薩人に開けば知れることで あるが其後立証の説も否定の説も現れなかつた。然し成るべく事実として眺めて 置き度い。 血が違つても二人共に同情を博した熱血漢である。故重野文学博士は弁慶と児島 高徳は実在の人で無いとの論文を公表されたが、小説の作為から史題となつて生 れた人物に贈位があつても差支へぬことで、歴史は考証家の断定で死活するもの で無く、史蹟は年代の公認によつて確定するのである。大塩と桐野とは他人であ つても父子として置く方が歴史の色彩に興味がある。  此稿総て伝聞の記憶を辿り他人の感想に迷ふを避くる為一切参考書に拠らざり          (6)  しを以て時日人名の詳を得ざるは遺憾なり。  大正七年夏八月米騒動のあつた盆に浜村源光寺へ墓参の序に寺前の中斎が碑を  尋ねて唯何心なく     すぎにける昔語りの跡問へば浪花入江の芦のささめき。       ***********************  (6)本病の緒を授けられた今井老人は幕末最後の経費として大阪市人に過酷     の御用金を課して時人に忌憚されたが親しく其人に接して見れば温情の     君子人で実不停止場合であると歎じてゐられた。


南浜墓地のことか
井形正寿
「大塩ゆかりの史蹟
を訪ねる (二)」 









幸田成友
『大塩平八郎』
その166

























大塩の著書
幸田成友
『大塩平八郎』
その56



















桐野利秋
天保9.12〜明治10
(1838〜77)
乱は天保8年2月
発生























重野文学博士
重野安繹
(1827〜1910)
実証史学


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