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大塩の乱関係史料集目次

▽此儘見捨ては武士道立たず

追々暖和之時節に相成候処 御両所様尊兄様姉上様始め御一統御揃 益御機嫌能 可被為在御座候哉 奉恭悦候。

然者 私儀先便小倉表より申上候通り雨天相続き候へ共 日積大体十七日夕刻大阪安治川へ着仕、四ケ年以前師弟之契約仕候大阪天満与力大塩平八郎方へ着仕候。

久々にて面会致候処、如何なる天魔の見入候哉、平八郎存外之企有之 明十九日大阪町奉行を討取 其上市中に放火致し君を誅し民を弔ふ抔と全く謀反の企にて 私荷担可致旨 強て申聞、種々諌言致し候へ共、申出候事返さぬ氣象故 容易には承知仕間敷と存候。

併此儘見捨 私帰り候ては武士道相立不申 且其上如此大望を明し候平八郎に候へば 私不承知の上は生きては返し申間敷と被存候。

乍去 荷担候はゞ 第一御家の御名を穢し忠孝の道に背き候。

去りとて師を見捨候ては信義相立不申、無擴（よんどころなく）一命を差出し今夜平八郎始 徒党の者へ利解申聞忠孝信義相立候様仕度奉存候間、何共重々恐入候儀に御座候へ共 御前万端宣敷御取繕奉願上候。

是迄厚き御慈愛を蒙り 私帰国も無程儀と御待も被下候儀と存候へ共、尚又故郷難忘事未練の者と思召恥入候仕合に御座候。

悪き時節へ参り合せ候は全く私武運に相尽候ものと存候。

且友助儀永々之旅中厚く世話致し呉れ其上昨年私不快の節抔別而厚く介抱致し呉れ候。一礼も不申相別申候。御序之節宣敷御伝言可被下候。

様子具に申上度候へ共、何れ当日の様子御地へも相知れ可申候間 不申上候。

大阪騒動と御承知被下候はゞ敬治は相果候儀と思召可被下候。

最早時刻に相成心急荒増申上候。私心底御賢察奉願上候。　以上。

　　　　二月十八日　　　　　　　　　　　宇津木　敬治

　　　　　　　御一統様

◎宇津木敬治は江州彦根藩の家老宇津木下總の次男で静区と号した。幼い時眞宗寺の養子となりしも之を厭うて寺を去り剣道を学び儒書を講じた。年長けて京都の中島棕隠退の門に入つたが棕隠と意見合ず、更に大阪著名の陽明学者たる大塩平八郎に学び、後長崎に遊学した。天保八年の米価暴騰から大塩が義憤を発して同年二月十九日に暴動を起す前、事に託（かこつ）けて静区を招き寄せ其の密謀を明して荷担を強ひた。彼は驚いて之を諌めたけれど大塩は聴入れず、 却て一室に彼を拘禁したので、彼は家郷へ永訣の書面を認めた上死を期して大塩を諌めたが、一味の某の為に槍を以て刺殺された。時に二十九歳。此の書面を見れば彼の心事が惻（そく）々として紙上に迸（ほとばし）つて居る。が此事蹟は一篇の仮作であるとも云う。