兇徒捕縛の
厳命
風説頻々
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十九日夜城代は各藩蔵屋敷に平八郎父子・済之助・良左衛門・梶
五郎・義左衛門の人相書を遣し、当地並に御領内に於て右の者共
見合次第召捕相成度、時宜により打拾てらるゝも可なり、早々御
吟味の上、疑しき者は都て大阪町奉行所に差出されたく、人違苦
しからずと申渡した、それから彼等が或は水路を取つて逃亡する
恐がないとも限らぬとあつて、廿一日夕急に命を下して川口出入
の船舶に点検を加へ、船にて両川口を塞ぎ、夜間は一切往来を許
さざることゝし、又摂播二国の津々浦々に触廻し、廻船小船又は
漁船を雇ひ、他国に渡らんとする不審の者あらば、一切其命に応
ぜず、何とか手段を運らして本人を抑留し、其旨直ちに届出づる
に於ては、過分の褒美を与ふべしといひ、水陸共草を分つて捜索
に従事した、之が為大塩党中捕縛せらるゝ者・自訴する者・自殺
する者等続々として出でたが、平八郎父子の行衛は三月になつて
も未だ知れぬ、町奉行より乱暴の者共追々召捕たるにつき安心せ
よとの口達はあつても、市民は誰一人枕を高くして寝る者は無い、
ビク\/
口達を出した町奉行すら惴々もので、毎夜玉造口与力に泊番とし
て来るやう切に依頼してゐる始末だ、二十日払暁玉造方面が不穏
だといふので、俄に守備を増したが何事もなく、さうかうする中
に又もや暴徒守口町に屯集すとの風説伝り、城代は京橋門外の尼
崎藩兵に、出張の上実否を正すべしと命じ、跡部山城守も亦前夜
宿直の玉造口与力八田又兵衛高橋佐左衛門及同心十二人(後より
十人を増す)を藩兵の響導たらしめ、彼等は相伴つて守口町に赴
いたが賊徒の蔭もない、廿二日八ッ時頃唯今平八郎船にて天満橋
へ到着といふ飛報に、城中一同騒出したが、真先に之を追手の玄
関へ注進したは東町奉行所の用人武善之助で、実は三拾石船が天
満橋に衝突した為、奉行所から人足を出し、彼是混雑してゐるの
を彼が見誤つたのであつた、又平八郎が摩耶山に隠れたとか、甲
山に楯籠つたとかいふ風説もあつて、其度毎に与力同心の出役と
なつたが何の獲物もない、廿三日京都の所司代松平伊豆守は大塩
の残党丹波に隠ると聞き、亀山・淀・郡山の三藩並びに京都町奉
行梶野土佐守に出兵を命じたのは軽率も亦甚しし言はざるを得ぬ、
廿六日に幕府が郡山・姫路・尼崎・篠山・岸和田五藩に大阪出兵
を命じたは、遠距離の為阪地の形勢が知れなかつた為であらうが、
伊豆守の方は弁護の仕様が無い、京畿の人心恟々といふこと丈は
これで能く解る。
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十九日夜城代は各藩蔵屋敷に平八郎父子・済之助・良左衛門・
梶五郎・義左衛門の人相書を配布し、当地並びに御領内において
右の者共見合次第召捕相成度、時宜により打拾てらるるも可なり、
早々御吟味の上、疑はしき者はすべて大阪町奉行所に差出された
く、人違苦しからずと申渡した。それから彼等が或は水路を取つ
て逃亡する恐がないとも限らぬとあつて、廿一日夕急に命を下し
て川口出入の船舶に点検を加へ、船にて両川口を塞ぎ、夜間は一
切往来を許さざることとし、また摂播二国の津々浦々に触廻し、
廻船小船又は漁船を雇ひ、他国に渡らんとする不審の者あらば、
一切命に応ずべからず、何とか手段を運らして本人を抑留し、そ
の旨直ちに届出づるにおいては、過分の褒美を与ふべしといひ、
水陸共草を分つて捜索に従事した。之が為大塩党中捕縛せらるる
者・自訴する者・自殺する者等続々として出でたが、平八郎父子
の行衛は皆目知れぬ。町奉行より乱暴の者共追々召捕たるにつき
安心せよとの口達はあつても、市民は誰一人枕を高くして寝る者
ビク\/
は無い、口達を出した町奉行すら惴々もので、毎夜玉造口与力に
泊番として来るやう切に依頼してゐる始末だ。二十日払暁玉造方
面が不穏だといふので、俄に守備を増したが何事もなく、さうか
うする中に暴徒守口町に屯集すとの風説伝はり、城代は京橋門外
の尼崎藩兵に、出張の上実否を正すべしと命じ、跡部山城守も亦
前夜宿直の玉造口与力八田又兵衛高橋佐左衛門及び同心十二人
(後より十人を増す)を藩兵の響導たらしめ、彼等は相伴つて守
口町に赴いたが賊徒の蔭もない。廿二日八ッ時頃唯今平八郎船に
て天満橋へ到着といふ飛報に、城中一同騒出したが、真先に之を
追手の玄関へ注進したは東町奉行所の用人武善之助で、実は三拾
石船が天満橋に衝突した為、奉行所から人足を出し、彼是混雑し
てゐるのを彼が見誤つたのであつた。その外平八郎が摩耶山に隠
れたとか、甲山に楯籠つたとかいふ風説もあつて、その都度与力
同心の出役となつたが、何の獲物もない。廿三日京都の所司代松
平伊豆守は大塩の残党丹波に隠ると聞き、亀山・淀・郡山の三藩
並びに京都町奉行梶野土佐守に出兵を命じ、廿六日幕府は郡山・
姫路・尼崎・篠山・岸和田五藩に大阪出兵を命じた。後者は何分
遠距離とて阪地の形勢が知れなかつた為といへようが、伊豆守の
方は弁護の仕様が無い。京畿の人心恟々といふこと丈はこれで能
く解る。
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