心不帰乎太虚
必動矣。何則有
形者、雖凌雲之
喬嶽、無底之大
海、必動揺於
地震也。而地震
不能動太虚
焉。故心帰乎太
虚、而始可語
不動也已矣。
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太虚に帰らざる心は必ず動く。何となれば、形あるものは、
そこひ ふる
雲を凌ぐ喬嶽と雖も、底なき大海と雖も、地震へば必ずそれ
が為に動揺せざるを得ないからである。而も太虚は地震の為
に決して動かされない。故に心太虚に帰るを得て、始めて不
動の精神を語ることが出来る。
此の語また一種の比喩である。『太虚にかへりたる
心には、人欲の私が無い。故に、如何なる誘惑物、
―こゝでは地震に喩へてあるが、富貴貧賤の如き―
が来ても、決してそれが為に正義を失はぬけれども、
若し、太虚に帰らずして人欲の私が存するならば―
こゝには形ある物に喩へてある―其の誘惑物の為に
心動きて正義を失ふことゝなる』との意。
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『洗心洞箚記』
(本文)その15
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