四時成万物者也。
而至其極則愚不
肖、恨夏熱、怨
冬寒、甚於仇讐。
而夏冬神固無心。
而不肯顧其怨恨、
直道以行焉。而成
万物也。君子之不
容乎小人、於此
乎可悟。然両君子
只是行其道而已
矣。亦奚伎倆之有。
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○ ○ ○ ○ ○ し じ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
春夏秋冬の四時は万物を成育する力である。然るに、自然
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が其の力を十分発揮するといふと、物の理を弁へぬ人達は盛
○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○あだかたき○ ○ ○ ○
夏の炎熱を恨み、厳冬の冱寒を怨むこと、実に仇讐に対して
○ ○ ○ ○ ○ ○ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● あへ ● ●
よりも甚しい。而も、夏の神、冬の神は固より無心、肯て其
● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● や ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
の怨恨を顧みない。夏の炎熱燬くが如からしめ、冬は冱寒凍
● ● ● ● ● ● ● さ ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
るが如からしめ、些の用捨もなく其の本来の力を発揮する。
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と、そこに万物は盛に成育して、地上の物はすべて天の恵と
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祝福とを享有することゝなる。自然の力が、かく人の怨恨を
顧みるなく。其の行ふべき処を直行する如く、君子が小人に
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対する場合に於ても之と同じく、小人の毀誉や褒貶やは、全
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く君子の眼中には無い。たゞ其の行ふべきを行ひ、言ふべき
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を言ふのみである。君子の心情、何等の術策も伎倆もなきこ
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と、恰も天然の力の発現と同じである。
然り、天然には何等の技巧もない、しかも、よく文をな
す。而して又自然には躊躇がない。たゞ実行あるのみだ。
本然の力を直前に発現するのみだ。而もそれが万有に福
しつゝある。人も、此の境に悟入せんけれねばならぬ。
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『洗心洞箚記』
(本文)その29
冱寒
(ごかん)
凍りつくよう
な厳しい寒さ
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