Я[大塩の乱 資料館]Я
2015.3.14

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次
「大塩の乱関係史料集」目次


『通俗洗心洞箚記』
その66

大塩中斎著 下中芳岳(1878-1961)訳

内外出版協会 1913

◇禁転載◇

上巻 (62) 六二 斯くて「命」の真意を悟る

管理人註

雨余池満、一魚溌 刺、誤投身于地、 展転反側、蟻既攻 焉。予喫飯了、偶 歩池辺、看其 状、憫爾駆蟻、 テヅカラ 手帰諸池。圉圉 洋洋以沈没。喟然 嘆久之。因遂心 悟所謂命数之命 矣。

     わし              そゞろあるき  或る日、予は食事を終ッて、庭の池の辺を漫行して居た。 それは丁度、降雨の後で、池には水が一ぱいに満ちて居た。             はねかへ 見ると、一尾の魚が、展転溌反ッて居る。数疋の蟻は、はや 其の周囲に群がッて攻撃し始めて居る。此の魚は、恐らく池          はねかへ 中の水多きを喜び、溌剌ッた拍子に誤ッて地上に身を投げ上            いぢら              おひや げたのであらう。吾は憫然しくて見るに堪へぬので、蟻を駆ッ てづか て手ら其の魚を取ッて池の中へ放してやッた。魚は喜ばしげ  ゆつたり に洋洋として深く沈み去ッた。予は其の様子を見て、一種の 感に打たれて、暫しは其処を去り得なんだ。あゝ此の魚、若 し、喜んで溌剌らねば、あの様な憂目には逢はなかッたらう に。それにしても、予が見付けたらばこそ助かッた。若し、 予が来なんだら蟻は喜んだらうが魚は死んだに違ひない、あゝ 運命。運命といふは、実に判らぬものである。しかし吾は、 此の一小出来事によッて、所謂「命数」の「命」の真義を心 悟し得た。

    頗る暗示に富んだ警句。さるにても、中斎は、気質変 化を説きて所謂意志の自由を認めながら、なほ陽明学   つきもの 派に随伴たる宿命的見解は脱することが出来なんだら しい。


『洗心洞箚記』
(本文)その117
 


『通俗洗心洞箚記』目次/その65/その67

「大塩の乱関係史料集」目次
「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ