子弟問文文山正
気歌所謂鬼神泣
壮烈義。曰。
「人真有忠君之
心、而無一毫人
欲之私者、読孔
明出師表必飲泣
矣。便是良知之感
動也。良知即鬼神、
何別有鬼神乎哉。
鳴呼、爾等亦忠矣、
則必知得鬼神之
泣。
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(一)
我が子弟中、文天祥の正気歌の中なる「鬼神壮烈に泣く」
わし
の義を問ふものがあッた。で予は斯う答へた。
『真に君に忠ならんの心あッて一毫人欲の私なき人、若し、
(二)すゐしのへう
孔明が出師表を読まば、必ずや哭泣涙に咽ばざるを得ないで
(三)
あらう。便ち是れ良知の感動然らざるを得ないのである。良
やが
知は即て鬼神、何も良知の外に鬼神あるの訳では無い。あゝ
しれつ
爾等も亦善く真に忠ならんの一念熾烈ならば、必ずや鬼神壮
烈に泣くの真意を知了し得るであらう』と。
(一)文天祥が獄中にて作ッた正気の歌中にあり。
「鬼神壮烈に泣く」とは諸葛孔明の出師表を称し
た句。
(二)諸葛孔明、蜀に相となりし時、誠心を開きて君
に奉りたる政治上、軍事上の建白書なり。
(三)鬼神とは形なく目に見えざる自然の力。良知は
即ち其の鬼神と本体を一にすとの意。
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『洗心洞箚記』
(本文)その118
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