有類狷忿者、
動鬱心而悪人。
予告之曰。「子
廉而謹取予、不
吐諛言以媚人。
子心能知否。」曰。
「能知。」是乃子
与流俗人相反処、
子心亦能知否。」
曰。「能知。」「而
子有妬心、時竊発、
不知之乎。」曰。
「有焉。故不得謂
不知。」「子有驚
寵辱、与趨避禍
福之心、子不知
之乎。」曰。「有焉、
故亦不得謂不知。」
「是即流俗人、与子
相同処、子亦不知
之乎。」曰。「安得
謂不知哉。」然則畢
竟子与流俗人相反、
乃其跡耳。而心則無
殊別矣。又何非彼
是我、然怒為。
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予の知人に狷忿に類する性質の人があり、動もすれば心鬱
して人を悪む風がある。
きみ
『子は極めて廉直な人だ。常に取予を謹みて、故なきに人
へつらひ
より物を受くるが如きことをせぬ。又、諛を言ッて人に媚びた
ことも無い。子は、此の事を能く意識して居るか。どうか。』
と予は言ッた。すると其の人は、
『能くそれは知ッて居ます。』といふ。で予は、
『さうか。しかし、是は、予が流俗の人々と相反する点なの
だが、それも知ッて居るか。』
『それも能く知ッてゐます。』
『処が子には又、常に一種の妬心がある、それが満腔の不平
となッて、時に窃に発することがあるが、子はそれを知らぬか。』
『実際そんなことがあります。知らぬとは謂へませぬ。』
『子には又、寵辱に驚く心と禍福を趨避する心とがあるが、
し ら
子はそれを自覚ぬか。』
『実際それがあります。知らぬと言ふことが出来ませぬ。』
『ところで、此の二つの点は、流俗の人と子と相同じき処
だが、子はそれを承知か。』
どうし
『承知してゐます。安て知らぬと謂はれませう。』
つゞまるところ
『して見れば、畢竟、子と流俗の人と相反する処は、たゞ
かたち
外面に現はれた形跡の上ばかりである。心の中は、何も別に
ことな
殊ッた点を見出さない。だから何も、彼等流俗の人々を非と
(一)いきどほろしく
し、我を是として、然、怒る必要もないではないか。』
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世は皆濁れり、我独り清めりとして自ら高うし而も世
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に慷慨するの人、此の文を読みて如何の感かある。
(一)然―孟子に「然として其の面を見る」
もと
とあり。很り怒る貌。
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『洗心洞箚記』
(本文)その127
狷忿
(けんぷん)
心が狭くて、
おこりっぽい
悪(にく)む
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