Я[大塩の乱 資料館]Я
2015.4.8

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『通俗洗心洞箚記』
その85

大塩中斎著 下中芳岳(1878-1961)訳

内外出版協会 1913

◇禁転載◇

上巻 (81) 七五 偉大なるかな聖人の徳(3)

管理人註

是観之、則孔子 之告、雖於一 時、其平生慎独不心之工夫、無 少間断。故其浩然之 気、塞乎天地之間。 蘇子之所謂、卒然遇 之、王公失其貴、晋 楚失其富、良平失 其智、賁育失其勇、 儀秦失其弁者也。是 故三子焉得其害 哉。若常人告諸三子、 則陽受而陰誅之、又 猶趙高之殺鹿者 然。故使孔子処鹿馬 之事、雖径言鹿、 趙高不独不之、 却戦其心、沮其謀 矣。是決非余人所及 也。夫径言鹿者、雖 固非黙者之比、然特 発一時慷慨之意気耳。 何有平生慎独不 心如聖人之真修実功 也哉。然則非浩然之気、 正大之心也。非浩然 之気、正大之心、而辱 人猶受禍、況挫宰臣 之言乎。宜哉「忠言発、 而陰禍臻焉。」故誠欲孝悌忠義於倉卒顛沛 之間者、居常戒慎恐懼、 而不理与気 合一也。不理与 気合一、而適発於一 時一事、則雖身無於君父国家、而天 之所我之良知良能、 未尺寸之発露而与減矣。豈非惜乎。

  ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎  孔子の此の厳乎たる態度に就いて考へて見るに、孔子の此 ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 態度は、斉の陳恒が君を弑したる報を得て一時に発したるも ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ のゝ如きも、実は其の平生に於て、慎独己が心を欺かざる工 ◎  しばら◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ 夫、少くも間断なきが為である。其の浩然の気が、天地の間 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ に塞ッて居て、蘇東坡の所謂、卒然之に遇へば、王公も其の ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ 貴を失ひ、晋楚も其の富を失ひ、良平も其の智を失ひ、賁育 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ も其の勇を失ひ、儀秦も其の弁を失ふものである。此の徳の ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ど 権威、此の浩然の気、此の宇宙に充満するの力に対して、如 う ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ 何して彼の三子輩、害を加ふることが出来よう。けれども、 ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎  おもて◎ ◎ ◎ ◎ひそか◎   若しも、常人にして諸を三子に告げんには、陽に受けて陰に ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 之を誅する、又かの趙高が鹿だと言ッたものと同じく殺され ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ たに違ひない。それに反して、若しも、孔子をして、かの鹿、 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎   ますぐ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 馬の事に処せしめたならば、勿論、径に鹿だと言ッたに違ひ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ないけれども、而も趙高は決して之を害し得なんだであらう。 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎おのゝ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ はゞ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎  寧ろ却ッて其の心戦き、其の謀を沮んだに違ひない。是れ決 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ますぐ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ して余人の及ぶ所では無い。かの径に鹿だと言ッた者は、其 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ の意気に於て、固よりかの黙するものゝ比では無いが、然も ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ 此は、特に一時慷慨の気の発したるに過ぎぬ。故に殺された ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ のである。平生慎独心を欺かざる聖人の真修実功あるが如き ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ 結果を齎すことの出来なんだは、固より已むを得ない。聖人 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ の真修実功ある、是れ実に浩然の気、正大の心である。浩然 ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ の気、正大の心なくば、人を辱しめてすら猶ほ禍を受くる。 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ど う ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ 況して宰臣の言を挫く、如何して害を免れ得よう。宜なるか ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎   ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ まこと ◎ ◎ ◎ な、忠言して陰禍臻ると。常人にありては此の言、実に真理 ◎ ◎ ◎   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● である。故に誠に孝悌忠義を倉卒顛沛の間に尽さんと欲すれ ●   ● ●   ● ● ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ば、居常、戒慎恐懼、而して理と気とを合一せしめんければ ● ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ならぬ。理と気と合一せずして偶々一時一事に発するあらば、 ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● 身を殺すと雖も天下国家を益するなく、天の我に与ふる良知 ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 良能、未だ尺寸の発露をなさずして、其の身と共に断減して ● ●   ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 了ふ。何と惜しむべきでは無いか。

    浩然の気、正大の心、而して慎独自ら欺かざるの真修実 功、是れ実に我が中斎が理想であり信仰であッた。而も 彼、未だ此の聖境に達し尽さず。其の途に於て、忠憤を 発して自ら陰禍を買ふに至れる、命とは言へ、惜むべき であッた。而も、彼が如き、末路を見たることが、反ッ て此の理想の実現に向ッて猛然突進したるを反面より証 するでは無いか。


『洗心洞箚記』
(本文)その149







































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臻(いた)る
 


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