Я[大塩の乱 資料館]Я
2018.2.8

玄関へ

「大塩の乱関係論文集」目次


『今古実録大塩平八郎伝記』

その18

栄泉社 1886

◇禁転載◇

 ○大塩兵を集めて軍を出す事(2)

管理人註
  

            いでたち 其日、惣大将大塩平八郎が出立には、白小袖の上に黒羽二重の紋付を重ね、 銀もうる野袴を穿、太刀造りの大小に黒羅紗の陣羽織、鍬形打たる廿四間の 白星の甲を着し、手に赤き采配を取て、人数を指揮す、其年齢四十五六歳に                              ちうぜい して、面長く色白く、眉毛逆立、眼袋大きく、眼光人を射、中肉中丈、威有  たけ て猛からず、言語爽かにて水の流るゝが如く、誠に何れへ出しても一方の大 将とこそ見えにけれ、


沢上江村上田幸三郎
阿部 長助白井孝右衛門志村斎治
 鎗人足曾我岩蔵松山 三平同 周治
旗 大筒人足二人播州加東郡堀井儀三郎
 鎗人足総大将
 大塩平八郎
喜八根本支配所
下辻村
得物持 金助
近藤梶五郎梶岡源右衛門
七助渡辺良右衛門深尾治兵衛
 鎗人足竹上万太郎梶岡 伝七
旗 大筒人足二人
 鎗人足
勢州山田
 
神主
与力



安田図書
西村新三郎
宮脇志摩
瀬田藤四郎

橋本忠兵衛
茨田郡治

杉本林太夫
横山文哉

大筒人足三人具足櫃
  寛蔵
大筒一挺
小筒二十挺
 
 
大筒打始メ
東奉行組屋敷
     より
人数凡
 百三十人許
判木屋
 北久宝寺町
  河内屋名不知

大工
 江ノ子島辺ノ者
  猟師 金助

                            ありさま 先一番に天下に其名を知られたる鴻池善右衛門が店に押寄たる形勢を聞くに、 店に詰合番頭手代小者丁稚に至る迄、スハ押寄たりといふより早く、狼狽周 章一方ならず、荷物を片付、蔵に入、戸前を〆んとするの騒ぎを見つゝ、大 塩父子は采配打振、汝等速かに此所を立され、迷ひ居て我下知を用ひざれば、             たちのく          うろたへ 忽ち命を失はん、早く打捨立退べし、と諭すと雖も唯狼狽て、中には立退者      まよひ      のか もあれど、迷を取て迯退ず、猶も彼是荷物をば、持運びなんどする者も有り、    ひま 兎角に間どり埒明ざれば、大塩声を励して、ハヤ時刻移る、是非に及ばん、  ひし 一挫ぎせよと、云より早く車に乗たる五貫目玉の木炮に、火矢を仕込たるを 押向、一発放しけるに、何かは以て堪るべき、さしも堅固に造りたる土蔵も、 霹靂一声して見る/\微塵と成たるにぞ、     あわてふためき                  ど          かゞ 一同尚も周章狼狽、只声を限りに泣叫び、我家ながらも途を失ひ、手屈まり、          くるめ 足震へ、腰抜て、目眩き、迯得ざる者多かりしと、逆徒等猶も鉄炮火矢を打    やま        さかん 懸/\止ざれば、炎盛に燃上り、其すさまじき事言ん方なし、 夫より近傍の金満家を、家毎に大筒火矢を打込、エイ/\声にて押行ながら、                          よば 大塩皆々に下知をなし、迯去れ/\と一同に声を懸させ呼せたるは、怪我過                   てだて ちをさせまじとする、是ぞ人心を得んの術計なりとか、               がうだん          いは 然ど強壮の男と見れば引捕へて強談し、味方いたすべしと言るゝ儘、皆々怖                       おさ ろしさの儘言べき様もなく、附従ふ者どもに車を押せ、又其外の役に遣ひけ                     かね るが、爰に灰屋といふ者有り、此者を捕へて鉦を鳴させしに、余りに怖ろし                       やつばら さに手震ひて、鉦の音一向に出ざれば、役に立ぬ役原かな、然ば車を押べし   おさ           しき とて押せけるに、辻の角にて車踵りて廻らぬに、四五人懸りて押廻す時の拍 子に紛れてや、漸々に其場を遁れ去しと、跡にて語りけるとなむ 去程に逆徒等は、次第/\に大筒火矢を打込/\押行故、其町々の騒動言ん 方なく、誰しも命は惜き故、東西南北に迯迷ふて、火を防ぐ者更になく、黒     みなぎり        ちまた 煙天地に漲て、如何なる修羅の街といへど、是には過じと思はれたり、       ふゆ      う ろ 逆徒等人数は殖れ共、烏鷺つく者は、誰彼を言はず呼止て、役に遣ひけるが、 爰に河内在の百姓にて、娘を大坂の町へ縁付しが、此大火と聞、心元なく急 ぎ見舞に来りしに、是も同じく逆徒等に捕へられて、鎗を持てと言付られ、   かしこ   ぶる/\                 きもだましひ     そは 恐み畏み、震々鎗を持けるが、如何に成行事やらんと、胆魂も身に副ず、言                  とけ 付られし如く従ひ行しが、脚半の紐の解しゆゑ、是を結ばんとしたりし内、 少し後れて有けるが、コハ逃るには幸ひなりと、其儘鎗を打捨て、一散に迯                      いとま 走りしとぞ、都て斯様の事多く、挙て数ふるに遑あらず、 既に逆徒等船場迄推来りし頃は、同勢を三段に備る程の多勢となり、先手は                            ぬか 東横堀、今橋を打渡りて、思ふ儘に放火なして、彼奉行所を抜んものと、内             さかん         ます/\はびこ 平野町を一同に押来る勢ひ盛なり、火炎は益蔓延りて、余煙天を覆ふて物凄 し、


『天満水滸伝』
その20

幸田成友
『大塩平八郎』
その132


『今古実録大塩平八郎伝記』目次/その17/その19

「大塩の乱関係論文集」目次

玄関へ