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○瀬田藤四郎は、済之助が父にて、近頃中風にて、物の用にも立難く、然れ
ど頗る火術に精しく、今度一味の者共の助とこそは成にけれ、彼済之助が事
もろとも
を聞て、家内五人侶倶に大和の国の知己の方へ遁れて、爰に匿れしが、終に
召捕とはなりにける、
○杉本林太夫は始の名林太郎と云、淡路町辺の医師の忰なれど、不幸にして
みなしご
親兄弟に連年死去され、孤と成けるを、平八郎は深く憐み、我家へ引取、内
弟子とす、当年未十三歳といへども、強気の者にして、十九日には、若年に
けなげ 召 なら
似合ぬ殊勝な働きせしも、終に其場に可捕れける、此者平八郎が口気を做ひ
得、大に朝政を誹謗なし、奉行を始め吟味の者を罵詈て、斯大望の早く顕れ、
奸人共を誅戮せざるを恨とすと、傍若無人の弁を吐き、恰も其体狂人の如く
なりしと言伝へり、
○天満東組の同心吉見九郎右衛門は、此間中病気にて打臥居しに、忰英太郎、
并に先頃出奔せし河合郷右衛門の忰八十次郎と倶に、証拠の書面を持参し、
西町奉行堀伊賀守へ、二月十九日の暁頃、密訴に及ぶも、時刻後れ、夫のみ
ならず、淡路町にて逆徒の輩が捨行し彼大塩が具足櫃の中を改められし処、
一味徒党の連判状に、慥に姓名の記し有ば、三人共に取籠らる、
此外追々召捕れし其者共には
○白井幸右衛門
○西村新三郎
○上田幸三郎
○梶岡源右衛門
○梶岡伝七
○志村周治郎
○堀井儀三郎
○阿部長助
○曾我岩蔵
○市田次郎兵衛
○額田善右衛門
○郷井磯四郎
○横山文哉
是等は、諸方の浪人輩と郷士の百姓等にして、京都伏見の近郷近在にて、皆
こと/゛\く
悉皆召捕れ、大阪表へ差送られ、入牢の身と相成し、誠に公儀の御威光に恐
れざらんや、愼まざらんや、
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『天満水滸伝』
その37
幸田成友
『大塩平八郎』
その153
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