Я[大塩の乱 資料館]Я
2018.3.2

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「大塩の乱関係論文集」目次


『今古実録大塩平八郎伝記』

その39

栄泉社 1886

◇禁転載◇

 ○大塩父子自殺の事(3)

管理人註
  

因て其方案内すべし、と厳しく申付て、先に立せ、急ぎ美吉屋が宅へ至り、        さま 例の朝飯を送る体にて土間を越て、一人立の狭き所を通り越、三尺に足ぬ路                         くらゐ 次に木戸あり、漸々屈みて肩を横にし出入をなすべき位なり、                    いつも かの女房は戸口に立、例の通り音なへば、毎時の食事を運ぶ者ならんと、格                 うしろ 之助は戸を細目に明見るに、女房の背後の方に捕方と見える人数ども押懸た               はた               しか り、と見て取れば、其儘戸をば礑と立切り引込しゆゑ、捕手の面々聢と見届             てだて            ためらひ けはしたものゝ、如何なる手術やあらんかと猶予けるが、其内に中には人の 多く居て、鉄炮/\と騒ぐ声に、捕手の者ども声を懸、            かく          とて 御上意なるぞ、平八郎、斯所在を知られし上は、迚も遁れぬ処なり、鉄炮な                           おほ どゝ罵れど、火器は残らず取上しからば、何時までか遁れ負せんや、尋常に 縄に掛るべし、卑怯なり、 と呼はりけるに、心得たり、と計り答へ、何やら騒ぐ物音するゆゑ、今は何             こみいれ 程の事やあらん、打破りて込入と、力を合せ一同は板羽目をば打破り、第一 番に進みしは、御城代の勘定方、岡村万蔵といへる者なり、 然るに場合狭き土間にして、椽側もなき小部屋の戸を、又一重〆切あり、此 戸を又も打破るに、寄掛たる畳打倒れて、格之助の死骸顕れ出たり、 平八郎は、小座敷の四方へ火薬を仕掛置、真中に立て肌を脱、今腹を切んと                    せき せし処へ、捕手の者ども乱れ入しに、心急迫て其隙なく、刀を逆手に取直し、 ふたかたな 二刀まで咽を突、三刀目には頂まで突貫きしが、刀を引拔、捕手を目懸投付 しを、万蔵棒にて請止たり、    【踏み込みの図 略】 其儘平八郎は俯伏しが、兼て仕掛し火薬に火移り、一時にパツと燃上り、黒            おもて むく 煙一室に充満しけるに、面を向べき様もなく、一同跡へ颯と引退き、夫より おの/\ 各々火を打消んと立騒く内、出火なれば両町奉行出馬あり、此火の手を見て、 火消人足駈付来りて、漸々に火を鎮めしが、此部屋の屋根へ燃抜たるのみに て、余に類焼はせざりしと、 斯て両人の死骸を引出せしに、格之助は全身焼爛れ、胸の元をば刺通し、腰                         おそらく にも突疵一ケ所ありて、何様自殺にはあらざるべし、恐くは、平八郎が手に 掛、殺せしなるべし、又平八郎も惣身焼爛れて、面貌また分ち難く、俯伏に             とほりてがた 倒れしが、懐中には往来の通券あり、雷門、観永の名記しあり、雷門とは平 八郎が事にして、観永とは格之助がことか、                  さま 是を以て見る時は、両人とも剃髪し、体を替しに相違なきなり、然れども捕 手の者押入し節は、其髪毛の有無見極めし者なかりしとかや、 既に両人の死骸を駕籠に乗せ、大塩平八郎、大塩格之助死骸と木札を付て送 られける、 扨美吉屋五郎兵衛夫婦の者へは、縄を掛、娘両人、下女下男六人、都合八人                                かくまひ は、其処の町役人へ屹度預けられ、又御詮議中の張本人を、五郎兵衛隠匿置 しを心付ざる段、町内の怠りなりとて、五人組并に年寄白子屋与一郎も召捕 となり、美吉屋夫婦、与一郎共町奉行所へ送られける、 彼張本人たる大塩父子の行衛、茲に至りて相知れしに、人々安心の思ひをな しにける、


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