石原干城（出版）兎屋誠（発兌） 1885
◇禁転載◇
適宜、読点を入れ、改行しています。
| ○錦城守衛 |
|---|
抑々、大坂町奉行跡部山城守組与力大塩格之助父隠居平八郎が逆意の儀、容易ならざる企てなり、と御城内にハ、十九日二十日まで、大手桝方に土居を築き、大筒五挺を据、御門外にハ柵を振り、竹束を用意し、御城代土井大炊頭利信朝臣 *1 の藩士、着込の上に火事羽織を着し、各々大手を警衛す、
京橋口は米倉丹後守昌寿朝臣の守衛する処なれど、未だ御役仰付られ上坂なきに因り、御城代よりの指揮(さしづ)として、山里加番土井能登守利行朝臣相詰られ、大筒二挺を備へ、竹束の用意ありて、其手の与力同心、此処を相守る、
玉造口にハ、遠藤但馬守胤統朝臣の組与力同心相固め、大筒二挺を備へ、竹束の用意あり、
又加勢として、東番頭菅沼織部正定正朝臣組与力同心召連、備へられしハ此手浅間なればなり、
杉山算用曲輪にも大筒二挺を備へ、御門外堀端にハ、摂州尼ケ崎の城主松平遠江守忠栄朝臣の手勢一千余騎、泉州岸和田の城主岡部美濃守長知朝臣の手勢七百余騎、相守りて陣を張る、
堺奉行曲淵甲斐守景高大勢守衛して奔走し、御目代中川半左衛門忠明、副使犬塚太郎左衛門忠邦の両人ハ、馬を飛せて御城外を巡見す、
御船手本多大膳正ハ、川口を守りて、通船を点検す、
郡山の城主松平甲斐守保泰朝臣の加勢にハ、居城郡山より一里半隔て、暗黒(くらがり)峠に出張し、御城代の指揮を待て、一番手ハ夜に入て同勢三百余人、玉造口まで繰込たり、
御城内にハ、御本丸西番頭北条遠江守氏喬朝臣の一手にて、組中引連相守る、此ハ菅沼織部正、玉造口へ加勢あるに因てなり、
御櫓ハ御蔵目付山中太郎左衛門、小野勘解由、西丸并びに御舂屋にハ、御塩噌奉行堀田重兵衛、仁科太郎次郎、御金蔵にハ、御金奉行幸田金一郎、仮役小畑監物、北沢猪之助御武具取出し、兼御鉄砲配りにハ、石渡彦太夫、鈴木治左衛門、上田五兵衛、御手洗伊左衛門、祖父江孫助、所々手配りにハ、御破損奉行 *2 国領市左衛門、病気に因て下役深見源蔵代りて相勤め、小林清之進、是を差配す、
御蔵奉行鳥田 *3 三郎右衛門、比留間兵三郎、仮役小谷太郎右衛門、曲淵玄右衛門等、難波玉造口両御蔵を固め、川崎御役所にハ、森左一郎、榊原太郎左衛門相詰、同じ廓ハ、山里の加番たる土井能登守利行なれど、此ハ京橋口へ詰らるゝに付、跡加番三人の内、中小屋井伊右京亮直経朝臣、青屋口米津伊勢守政憲朝臣、雁木坂小笠原信濃守長氏朝臣、面々の手勢家々の馬印を飜へし、兵具を建並べ、夫々に相守らる、
又其余ハ、換り＼／御城代の大書院に相詰らる、
十九日、御本丸御当番組頭衆難波田八右衛門、御番衆にハ、朝比奈重平次、本多重蔵、加藤権十郎、富永三郎右衛門、石黒作右衛門、小笠原鍋十郎、石川三之丞、粕屋与兵衛、川崎卯之助、雨宮次郎左衛門が輩(ともがら)、加勢として組頭衆笠原五太夫、曲淵惣太郎、大岡兵五郎、其相組の御番衆を引連て、口御番所を相固めける、
二十日ハ、組頭曲淵惣太郎、当番として御番所に相詰られ、御番衆にハ、服部九十郎、水島十兵衛、神田庄兵衛、間宮孫十郎、松田市郎左衛門、武藤式部、高尾覚之丞、鎮目牧太、小野鉄五郎が輩、加勢として昨日の如し、
十九日夜廻りハ、小林市郎右衛門、廿日は平川平十郎、御小家内見巡りながら、狭間＼／に弓鉄炮を配り、高張挑灯を出し、西組ハ、十九日、組頭当御番内藤十郎兵衛、御番衆大久保定次郎、武島主税、曲淵隼人、本多百助、山名繁三郎、鈴木三郎左衛門、野間市郎右衛門、加勢として組頭浅香伝四郎、入戸野九左衛門、野中三十郎、其相組石原城之助、豊島市三郎、石川多兵衛、小田切主計、山管助三郎、伴野権次、横山良輔、関彦十郎、昨日の如く相詰る、
夜廻りハ、十九日、間宮源助、廿日、市岡作兵衛、御小屋を巡見す、
爰に大坂城より凡そ二里余、保科弾正忠領分に御預け相成し焔硝蔵を、賊徒等襲はんも斗られずと、十九日夜中、御城代の命令として御手洗伊右衛門、同心引連、彼地へ赴き相守らる、
且関東へ急使もや遣ハさるも知べからずと、東にハ、太田清助、西にハ、石原城之助に、番頭より内沙汰あり、
廿日、賊徒大坂城より東の方、守口宿に二千余人屯集なす由風評の有けれバ、御天守台へ御城代を始め番頭衆など登られ、評議の上、詰合の内、土地案内の者を撰み、水島十兵衛を呼登せらる、
両日とも玉造口御蔵の薪を以て御門々へ篝火を焚せらる、同断御蔵よりハ、御蔵奉行鳥田、比留間、小谷、曲淵等、米五百俵を出し、此内二百五十俵ハ火災鎮りて後、道頓堀にて粥に焚き、焼亡人を救恤せらる、
又二百五十俵ハ、御舂屋にて粥に焚き、御塩噌奉行堀田仁料、是を司り、人歩への粮米とす、
廿日子の刻過る頃、鎮火せしが、東西道程七千六十間、南北同く千十間、天満十一丁目より燃出て、船場上町へ飛火し、追手筋御弓町の際に至りて燃止る、之が為焼失する家数、凡そ一万八千二百四十七軒、土蔵四百十一棟、穴蔵七百〇三ケ所、橋五ケ所、東照宮御宮、及び天満宮、其他堂宇三ケ寺、灰燼とハなりぬ、
抑、此日や、彼島原一乱の二百年回に当り、月日同き事、実に不思議の事どもと言べし、