|
又た山陽方さに日本外史を著はすの時、来りて中斎所蔵の
胡致堂先生読史管見を借らんとす。中斎元と軽しく蔵書を
人に貸さゞれども、山陽の著は、極めて世教に益あるを称
し、直ちに門人を遣はして之を与ふ。読み畢りて又七言古
体一首を以て之を謝す。
ス ヲ
大塩君、子起、仮 所蔵致堂管見。
ラシ ル シテ ヲ ス ト
門人白井尚賢齎 来。賦 此 為謝。
ニ ス ニ
一読当擲 付尚賢 也
頼 山 陽
ルモ ヲ スモ
借書 一 癡 仮 一 癡、
テ シ ノ
 嗇 自古 総 如斯。
カ ク ナラン ノ ノ
誰 人 能 如君 忱 諾。
リ テ ラ ヲ
専 价 来 送 不愆期。
ンヤ カ ハ ル ノ ヲヤ ム
况 吾 所借 君 所読。
シ メ ヲ ツカ ヲ
如 輟大 嚼分 羊 肉 。
ノ ノ
粘 紙 如蝟 朱 如星。
ニ センヤ ルニ レ
豈 比牙 籤 手 不 触。
ニ ムル テ ル
起 課 当刻夜 漏深。
ノ シ ヲ
半 帙 興 亡 閲古 今。
ヒ ニ テ ニ チ チ ヲ
逢朱 逢紙 輙 拍案。
チ ス ノ
一 灯 分 照 両 人 心。
既にして日本外史脱稿し、中斎一読を求む。山陽乃ち写本
一部を寄す。中斎之に報ゆるに、日山所造の名刀を以てす、
山陽又た七言古体一首を賦して之を謝す。
メ ヲ フルニ ス ノ ヲ
大塩君、子起、索吾旧著外史。答 以其佩刀。
ハ ノ ル テ ルニ ニ
刀名工所造。陋撰不足以当之。
シテ ヲ ル シ
慚悚之余、賦此奉謝。
頼 山 陽
シ タリ
吾 書 三 千 余 万 字。 博 得 君 家 両 尺 鉄。
ル シ ク ヲ シ ヲ テ ヲ ク ハ
廉 明 所佩 可辟妖。 服之 護身 長 不失。
クハ シ ルヲ ヲ ヘテ ヲ シ
君 刀 疑 経斬姦 邪。 魚 膓 紋 雑血 痕 。
ル ス ニ ハ ノ
吾 書 字 々 頗 類此。 此 是 千 古 英 雄 血。
ニ ルモ シ シテ ナカラ シ ノ
血 有新 陳用 意 同。 素 心 相 照 両 如雪。
シ ニ シテ ヲ スル ニ ヲ ルニ セ ル ヲ
如 新 発y 付吾 蔵。 及未覆  債君 閲。
ヲ フ ニ セ レ
吾 観吾 心吾 佩吾 心。 百 歳 不尽 又 不折。
|
山田準
『洗心洞
箚記』(抄)
その３９
『洗心洞
箚記』(抄)
その４０
|