Я[大塩の乱 資料館]Я
2013.6.15

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩中斎』

その27

山田 準(1867−1952) 

北海出版社 1937 『日本教育家文庫 第34巻』 ◇

◇禁転載◇

中篇 学説及教法
 第十章 洗心洞と入学盟誓
管理人註
   

 中斎は、文化十三四年、即ち二十四五歳の頃より、公暇に奉行所の子 弟の請に応じて文武両道を伝授したやうである。文政八年、三十三歳に は其家塾が洗心洞と名づけられ、従学するもの漸く多くなつた。是に於 て中斎は教育の要は師弟の名を正すに在りと信じ、盟誓文を作り塾則を 定め、厳重督励した。  中江藤樹は、子弟に対して師を以て自ら処らず、子弟を同志と呼んだ。 熊沢蕃山も其意を受け継いで居る。思ふに古今儒者自ら此二方面がある、 山崎闇斎などは、厳に過ぐるほど師弟の道を正した、中斎も此点は藤樹 と違つて闇斎に近い、矢張り其人の性格から来るのであらう。其の盟誓 文は左に、      洗心洞入学盟誓  聖賢の道を学んで、以て人たらんこととを欲せば、則ち師弟の名、正  さゞる可らざるなり。師弟の名、正しからざれば、則ち不善醜行あり  と雖も、誰か敢て之を禁ぜん。故に師弟の名、誠に正しければ、則ち  道、其の間に行はる、道行はれて、而て善人君子出づ。然らば則ち名  は問学の基なり、正しうせざるべけんや。某孤陋寡聞と雖も、一日の  長を以て其の責に任ず、則ち師弟の名を辞するを得ず、而して其の名  の壊ると壊れざるとは、大率下文條件の立つと立たざるとに在り。故  に盟を入学の時に結んで、以て預め其の不善に流るゝの弊を防ぐ。  原漢文     ○  ○ ○   ○ ○ ○  ○  ○ ○ ○ ○ ○  シ  一、主忠信、而不聖学之意矣。如為俗習所牽制。而廃               ○ ○  ○ ○ ○ ○ ○   ○  ○ ○ ○  ○ ○ ○ ○ ○  学荒業。以陥奸細淫邪。則応其家之貧富。使某所告之経史   ○  ○  以出焉。其所出之経史。尽附諸塾生。若其本人而出藍之後。各従  其心所欲可。         ○  ○  ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○  二、学之要。在行孝弟仁義而己矣。故不小説及異端眩                   ○ ○ ○ ○  人之雑書。如犯之、則無少長、鞭朴若干、是則帝舜朴作教刑之  遺意。而非某所創也。                          ○ ○ ○ ○  三、毎日之業。先経業而後詩章、如逆施之、則鞭朴若干。  四、不陰締交於俗輩悪人。以登楼縦酒等之放逸。如一犯  之、則与廃学荒業之譴同。  五、宿中不私出入塾。如不某、以擅出焉。則雖之、               ○ ○ ○ ○  以帰省。敢不其譴、鞭朴若干。  六、家事有変故。則必諮詢焉、以之有道義故也。非某欲  聞人之陰私也。  七、喪祭嫁娶及諸吉凶。必告於某。与同其憂喜。  八、犯公罪。則雖族親掩護。告諸官以任其処置。願  們小心翼々。莫貽父母之憂。   右数件。勿忘勿失。此是盟之恤哉。  先づ師弟の名を正すの一事、以て中斎の硬教育の第一歩を察す可し。 第一項先づ「忠信を主とし、聖学の意を失ふ可らず」と喝破し、第二項 「学の要は孝弟仁義を躬行するに在るのみ」と掲ぐる処、学は人格を成 すといふ教育の本義が昭々と宣示せられた。厳励の一例としては鞭朴若 干の罰則がある。又た珍らしいと思へるは、怠学の罰として貧富に応じ、 指示する所の書籍を購ひ出さしむることである。家事の変故、及吉兆の 事、必之を師に告げしむるは、師弟憂喜を分つの誼を重んじたのである。 以上各項、悉く中斎の面目を窺ふべきである。  中斎の邸第は頗る広く、其中に故塾、中塾、新塾の三塾があつた。故 塾には講堂があり、中塾は洗心洞にして書斎がある、初め之を中軒とい ひ、後ち中斎に改めた。新塾は文武の稽古所にて、東鄰の旧宅を修理し たもので、尤も広かつた。外に書庫が一棟あつて、数千帙の蔵書が収め られて居るが、其が収めきられず、講堂書斎にまで溢れて居た。中斎は 更に王陽明の龍場書生に示す、立志、勧学、改過、責善の四章を自書し て講堂の西面に掲げ、之を学堂西掲と云ひ、又た呂新吾の格言十八條を 書して学堂の東面に掲げ、学堂東掲と云ふた。  洗心洞教授の内容については、洗心洞余瀝といふ書に斯く記してある。  大塩は朝七ツ時 午前四時 に起きまして、すぐ講義が一度御座ります。  それから五ツ頃 午前八時 に出仕せられ、八ツ頃 午後二時 に役所よ  り帰られまして、すぐ一回講義が御座ります。それから二三度もある  事があつて、毎日大抵四五回づゝ講義が御座ります。門弟は大抵与力  衆で、四五十人も御座ります、塾生は十七八人許り、余は皆通うて来  られました。



石崎東国
『大塩平八郎伝』 
その35






『洗心洞箚記』(抄)
その6




























『増補孝経彙註序』
 


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