パラダイム・シフト
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コーチング理論では「答えはクライアントの中にある」とし、助言者があれこれ提案すると、クライアントが依存してしまうため、よくないとされます。この考えに与(くみ)するのが現在のコーチングの主流派のようです。

CTIジャパンのコアクティブ・コーチングでは「クライアントはもともと完全な存在であり、自分で答えを見つける力を持っていると信じる」とあります。理想主義的考え方ですね。

とはいえ、クライアントがパラダイム・シフト(発想の転換)をせず、同じ枠組みのなかで考える限り、クライアントは凡庸極まりない考え方しかできず、堂々巡りして前に進まない事態に陥ります。コーチがクライアントにパラダイム・シフトを促せるかどうかで、コーチングの成否が決まるのです。

たとえば、クライアントのAさんは管理職ですが、ずっとたたき上げで来たため、上司は部下より実務ができないければならない、と思い込んでいました。その結果、不慣れの新任の部署で有能な部下に取り囲まれて、すっかり自信をなくしていた、とします。

「Aさん、では実務能力をつけるには、何をすればいいと思いますか?」

これはパラダイム・シフトのない質問です。

「Aさん、それは素晴らしいではないですか。有能な部下に囲まれているというのは、ひとつの理想ですよ。あなたに必要なのは自分が実務に長けることではなくて、有能な部下から能力を目一杯引き出すことだと感じましたが、どうでしょう?」

こちらはパラダイム・シフトのある質問です。どうですか、違いは歴然としているでしょう。

ではこの「パラダイム・シフト」の正体は?

結局コンサルティング力です。コーチングと言えども、クライアントの話を要約したり、質問したり、感想を述べたりする過程で、分析・提案といったコンサルティング力を行使しているのです。

コーチングとコンサルティングを併用することなど、何ら目新しいことはなく、助言の当然のあり方のはずです。しかし、コーチングという新しい概念が生まれて専門化した結果、コーチングでは理想主義を盾にとって、コンサルティングには消極的で、否定的なのが実情なのです。困ったことに、

「助言者があれこれ提案すると、クライアントが依存してしまうため、よくない」

を自分の無能力の言い訳にしているコーチが少なからずいます。単に提案能力がないだけじゃないのか、と言いたくなります。この手の人はまずパラダイム・シフトの能力を持ち合わせていません。コーチングの理想主義の弊害でしょうね。正しくは、

「助言者はパラダイム・シフトをはからなくてはならない。しかし、詳細を提案する必要はない」

でしょう。コーチングのあるべき姿を突き詰めていけば、必然的に出てくる結論だと思います。

結婚問題
179



適齢期の男女をコーチングする時、絶対考慮する必要があるのが結婚というテーマです。

男女とも結構多くの人がこの話題を、はしたない、はずかしい、適当でない、と感じるようで、私が水を向けると、

「え、そんな話をコーチングでしてもいいのですか?」

などと聞き返す人が結構いました。適齢期の男女で自己実現ばかりを語って、結婚に触れない場合は必ず訊いてみる必要があると思います。案外、結婚が一番差し迫ったテーマであることがあります。自己実現を語る割には、自己実現のテーマがほとんど進捗しないという女性がありましたが、たずねてみると、

「現在相手はいないが、一生独身でいく覚悟は全くできてないのです」

という言葉が返ってきました。この状態で自己実現を追いかけるというのは無理というものです。

とくに女性の場合は、結婚するしないで、その人の人生設計がガラリと変わってしまうのです。また結婚後も、子供ができるとまたガラリと変わる可能性があります。ですから適齢期の未婚者をコーチングするときは、例外なく結婚は最大のテーマです。

結婚を扱うと言っても、気休めを言ってるようじゃ話になりません。私は具体的に提言を必ずします。現在相手のいない人に必ず言うのは、相手を見つけるのは自分ひとりでは機会がごく限られてしまうということです。ではどうするのか。

人に助けてもらう仕組みをつくる、ということが第一です。具体的には、親・兄弟・親戚・友人・知人・上司・・・想定できるすべての人に礼を尽くしてお願いして、釣書と写真を預かってもらう、のです。

私は言います。

「あなたが結婚相手なんか不足してないよ、という顔をしていたら、誰が助けてくれるでしょうか。意思表示をしなければ、あなたが結婚相手を求めていることを誰がわかってくれるでしょうか。世間は本能に正直な人には大変暖かいのですよ」と。

釣書をばらまく、というのは私自身も昔やったことなのです。私は恋愛結婚でしたが、家内は私の釣書をある人に見せてもらって、私がその気であることを理解した上で、近づいてきたそうです。だから実績のある方法なのです(笑)

私の提言を聞くと、みな一様に驚く様子です。しかし、なるほど、と言わない人はいません。コーチングはここからです。

「じゃあ、あなたはどうしようと思いますか」

にっちもさっちもいかなくなった相談事
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インターネットでウェブサイトを開設している関係上、日頃何かと相談を持ち込まれるのですが、やはり退いてしまうのは、にっちもさっちもいかなくなった相談事です。

たとえば別居した奥さんと復縁したい、なんていうのがありました。この人は2回別居して2回やり直し、奥さんは3度目の正直で出て行ったというのですが、話を聞いてみると、本人は最後まで奥さんの話に真摯に耳を傾ける態度に欠けていた、と言うのです。

私は単に難しいというだけなら、かえってやる気が出る方です。やる気の出ないのは相談を持ちかけてきた本人の自助努力の感じられないものです。にっちもさっちも行かなくなってから何とかしたい、と言われてもねぇ。

悪いがコーチングするのはこちらがアホらしくなってきます。

逆に日頃から問題意識を持って自助努力を重ね、早期に手を打って来ているという方は、こちらも大いにやる気が出ます。英語に、

A stetch in time saves nine. (適時の一針は九針を省く)

というのがあります。やはり足元の明るいうちに、早め早めに手を打っていく、これが自助努力であり、あるべき生きざまです。この生きざまがコーチングの前提条件でしょう。

すべて簡単な言葉で表現できる
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「なかなか理屈どおりいかないのですよ」

という発言はよく聞かれるところです。

しかし、要はその「理屈」が間違っていて、その「理屈」を超える「理屈」があったということでしょう。理屈は必ず言葉にできます。しかもわかりやすい言葉にできます。

漠然と不安である、と私に言われた方がありました。

「漠然ってどういうことですか」

「その漠然はどのあたりから来ていますか」

と食い下がるわけです。その漠然を言葉にしていく。言葉にしてしまうと大抵の場合、驚くほど簡単です。その結果、幽霊が幽霊でなくなるわけです。

混沌・複雑・曖昧は必ず簡単な言葉にできる。コーチングをやってれば必ずこの信念に行き着くことでしょう。

コーチングやってるくせに、文章がわかりづらいという人がいたとします。自分の考えを簡単な言葉で表現できないわけだから、コーチとしては大したことない、わけです。

ジャズ評論家の寺島靖国氏はどこぞのエッセイで、

「この世に、難しい言葉を使わなければ表現できないことなど、ない」

と書かれてましたが、心から同感です。

祝福と呪詛
176



「答えはあなたのなかにある」

これはコーチング業界最大の祝福であり、呪詛であるといえます。

邦題『コーチング・バイブル』の原書では、Four Cornerstonesという章に、

The client is naturally creative, resourceful, and whole.
The coach does not have the answers; the coach has questions.

と書かれています。

「コーチは答えを持たず、コーチは質問を持つ」

とあります。

「答えはクライアントのなかにある」

これはコーチング業界最大の祝福であり、呪詛であるといえます。

人間ひとりひとりは宇宙・真理とつながった存在です。だから本質は「人間神の子」なのですけれど、その原則論・本質論だけで物事解決するでしょうか。私は即座に否、と言うしかありません。

この原則論・本質論を表面的に解釈していくと、出てくるのは次の考え方です。

「答えはクライアントのなかにあるなら、コーチという助言者は、コンサルタントみたいな専門知識がなくても、お手軽に勤まるわけだな。よ〜し、これはいいぞ」

このノリでだれかれとなくコーチングに跳び付くわけです。コーチング講座を売っている会社があります。このお手軽感をベースに、たくみに売上をあげています。

で、コーチングをかじった人はふた言目には言うのです。

「答えはあなたのなかにあります。私はそれを引き出すだけです」

その結果、コーチングやってる人はソリューションがない、使い物にならない人が圧倒的に多い。

「答えはクライアントのなかにあって、それを引き出すだけ」ならテクニックさえ磨けば、高校生でもベテラン社会人を相手にできる理屈ですが、もちろんそんなことは無理です。

しかしコーチング業界はこのことを意図的?に問題としないようにしている、と私には思えます。

答えはクライアントにある、と言って置けば、成果が出ない時はクライアントのせいにできるため、圧倒的に好都合です。

とにかく従来あるコンサルティングに対して「差別化」がはかれなければ、コーチングの存在意義はないわけだし、せっかくのお手軽感を敢えて否定することはない。

原則論・本質論はもとより正しいし、その理想主義は人をひきつけます。

以上から理想主義を喧伝し、その弊害には敢えて目をつぶる結果になっています。

海千山千のビジネスマンはコーチングとその業界をどう感じるでしょうか。正直な感想としては、

「確かに見るべき点はある。しかしちゃんちゃらおかしい幼稚さもある」

でしょう。コーチングの光と影、祝福と呪詛は

「答えはクライアントのなかにある」

この金科玉条から派生しているのです。
200 コーチングで食べるのは最後に
199 コーチングの金銭感覚
198 心の準備
197 少人数
196 人生のキーワード

*
195 真我を信じよう
194 ムラ社会
193 夢を壊す権利
192 究極のパラダイム
191 これはコーチングですから

*
190 一緒に考えましょう
189 日曜喫茶室
188 いじめとアサーティブネス
187 齟齬の指摘
186 答えはクライアントの自助努力の中にある

*
185 私は何をしてあげたらいいですか
184 Sコーチ
183 答えを教える
182 光明と暗黒
181 アイボール・ミーティング

*
180 パラダイム・シフト
179 結婚問題
178 にっちもさっちもいかなくなった相談事
177 すべて簡単な言葉で表現できる
176 祝福と呪詛
*
175 アクセルを踏みながらブレーキ
174 コーチングは何が画期的なのか
173 コーチングの定義とは
172 コーチングは方便
171 適性はソリューション

*
170 成果報酬
169 開き直り2
168 開き直り
167 助言を受ける側の度量
166 みんなアマチュア
*
165 結婚の効用
164 面談の克服
163 失敗するかもしれないけれど・・・
162 心を明るく
161 鬱になるくらいなら周囲に迷惑をかけよう

*
160 ストレスをためない
159 組織人から個人へ
158 汲んで形にする
157 21世紀は個人の時代
156 実務はできなくても管理はできる

*
155 わかっているけど相談しよう
154 グーグルの「コーチング」
153 気を使わず、頭を使う
152 コーチングは現状からか、ゴールからか?
151 一期一会


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