○平八郎師の名義を以て無尽を企つる事（２）
大塩平八郎檄文の写 四海困窮せば天禄ながくたゝん、小人に国家を治めしめば災害至ると、昔 の聖人深く天下後世、人の君人の臣たる者を御誡め置れ候故、東照神君も、 もとゐ 鰥寡孤独に於て最も憐を加ふべくは、是仁政の基と被仰置候、 然るに此二百五十年、太平の間に、追々上たる人驕奢とておごりを極め、 大切之政事に携はり候諸役人ども、賄賂を公に授受とて贈り貰致し、奥向 女中の因縁を以て、道徳仁義をもなき拙き身分にて、立身重き役に経上り、 めぐら 一人一家を肥し候工夫のみに心を運し、其領分知行の民、百姓どもへ過分 の用金を申付、是迄年貢諸役の甚だしきに苦む上より、右の通無体之儀申 渡し、追々入用嵩み候故、四海の★万物一体に仁を忘れ、得手勝手の政道 を致し、江戸へ上米を致し、天子御在所の京都へは廻米の世話も致さゞる のみならず、五升一斗位之米を買に下り候者を召捕など致し、実に、昔葛 いづ 伯といふ大名、其農人の弁当を持運ひ候小児を殺候も同様、言語同断、何 く かくのごとく 処の土地にても、人民は 徳川家御支配の者に相違なき所、如斯隔を付候 さし は、全く奉行等の不仁にて、其上勝手我儘の触書等を度々指出し、大坂市 中の遊民計りを大切に心得候は、前にも申通り、道徳仁義を不存拙き身故 にて、甚だ以て厚かましく不届の至り、且三都の内、大坂の金持共、年来 諸大名へ貸し付候利足の金銀并扶持米等を莫大に掠取、未曾有有福に暮し、 町人の身を以て大名の家老用人格に取用ひられ、又は自己の田畑雑用等を おびたゞ 夥しく所持し、何不足なく暮し、此節の天災天罰を見乍ら思をもいたさず、 餓死の貧人乞食をも顧みず、其身は膏梁の味とて結搆の物を喰ひ、妾宅等 あげや さそひまゐり へ入込、或は揚屋茶屋へ大名の家来を誘引参、高価の酒を湯水を呑も同様 へいぜい に致し、此難渋の時節に絹服を纏ひ、河原者妓女どもを迎ひ、平常同様に 遊楽に耽り候は、何等の事に候哉、 おなじ そのところ 紂王長夜の酒盛も同事、其処の奉行諸役人、手を握り候故を以て、右の者 できがたく 共を取〆、下民を救ひ候儀も難出来、日々堂島米相場計をいぢり候事を致 かなひがたく し、実に禄盗人にて、決て天道聖人の心に難叶、御情なき事に候、 よんどころなく 蟄居の我等、最早堪忍ぶ事難成、湯武の勢ひ、孔孟の徳はなけれ共、無拠 わざはひ 天下の為を存じ、血族の禍を犯し、此度志し有者共申合、下民★★困窮と 相成候に付、人々上を怨まざる者なき様に成行候へども、江戸表より諸国 わけ 一同右の風儀に落入、天子は足利家以来、別て御隠居御同様、賞罰之ﾈを 御失ひに付、下民之怨、何方へ告愬とて告訴る方なき様に乱れ候に付、人 々の怨気は天に通じ、年々地震火災、山も崩れ、水も溢るゝより五穀飢饉 に相成候、 是皆天より深く御誡めの有難き御告に候へ共、一向上たる人心附ず、猶小 ともがら 人奸邪の輩、大切の政を執行ひ、只下を悩し金米を取立る手段計に相懸り、 実以て小前百姓共の難儀を、我等如き者、草の陰より察し恐れ候へ共、湯 いたづら 王武王の勢位なく、孔子孟子の道徳なけれ共、徒に蟄居致し候所、此節米 価珍しく高直に相成、大坂の奉行並役人ども、★★ 悩し苦しめ候諸役人 共を誅戮致し、引続驕に長じ居候大坂市中金持の町人共を誅戮に及び可申 候間、右之者共穴蔵に貯置候金銀銭等、諸蔵屋舗内に隠置候俵米、夫／＼ たとへ 分散配当致し遣し候間、摂河泉播の田畑所持致さぬ者、又仮令所持致し候 とも、父母妻子家内の養方難出来程の難渋者へは、右金米取せ遣し候間、 いづれ 何にも大坂市中に騒動起り候と聞伝へ候はゞ、里数を厭ず、一刻も早く大 まゐるべく 坂へ駈付可参候面々の金米を分遣し可申候、 鍛冶橋鹿台の金蔵を下民へ与へ遣さる志しにて、当時の飢饉難儀を相救遣 ぶだう し、若又其内器量才力等有者には夫々取立、無道の者共を征伐致し候軍役 にも遣ひ可申候、 必ず一揆蜂起の企とは違ひ、追々年貢諸役等に至る迄軽く致し、都て中興 神武帝御政道の通り、寛仁大度の取扱に致し、年来驕奢淫逸の風俗を一時 相改め、質素に立戻り、四民天恩の有難を存じ、父母妻子をも養はれ、生 前の地獄を救ひ、死後の極楽成仏を眼前に見せ遣はし、堯舜天照大神の時 代に復し難くとも、中興の気象に恢復とて立戻り申べく候、 くわた 此書付一々村々ヘ知せ度候得ども、夥多の事に付、最寄人家多候大村の神 殿へ張付置候間、大坂より廻し有之番人共に知せざるやう心懸、早く村々 へ相触可申候、 万一番人等目付、大坂四ケ所の奸人共へ注進致し候様子に候はゞ、遠慮な く面々申合、番人を打殺し可申候、若大騒動起り候を承りながら、疑惑致 し馳参り申さず、又は遅参に及候はゞ、金持の米金は、火中の灰に相成、 天下の宝を取失ひ可申候間、跡にて必ず我等を怨み、宝を捨る無道者と陰 言を致さず様、其為一同へ触知らせ候、 尤も是迄地頭村方に有る年貢等に係はり候諸記録帳面類は、都て引破り焼 おもんばか 捨可申候、是往々深き慮り有事にて、人民を困窮致させ申さず積りに候、 さりながら 乍去此度の一挙、当朝平将門、明智光秀、漢土文劉裕、米
忠の謀反に類 し候と申者も、是非是ある道理に候得共、天下国家を簒盗致す慾念より起 り候事には更に無之、日月星辰の神鑒にある事にて、詰る処は、湯武、漢 高祖、明太祖、民を弔し、悪を誅し、天罰を取る覚悟に候、 我等の所業、終る処を爾等眼を開て看よ、 但此書付、小前の者へは、道場坊主、或は医師等読聞せ可申候、右庄屋 年寄、眼前の禍を恐れ、一己に隠し候はゞ、追て急度其罪可行候、 奉天命致天罰候 天保八丁酉年月日 某 摂河泉播村々庄屋年寄百姓并小前百姓共へ 上包の図長サ一尺程、但し黄色薄絹の袋
天より被下候書付
村々小前のもの共に至る迄右の書は文字草書平仮名交にて、板刻なし、西の内五枚継、 筆者聞る事有り、大塩平八郎は諸芸に熟達せしも、惜ひ哉、火術に疎く、 故に兵を挙るの折、火術は諸弟子に任せし由、平八郎にして其術に精し くは、中々容易には征し難からんと、後に人々言合り、
「檄文」は、字 など違うところ があります 「大塩檄文」 （成正寺版） 『天満水滸伝』 その１６ 幸田成友 『大塩平八郎』 その９８ 雑用 新田 ★★〜★★の 部分は、本来 ★の位置には いるものです 漢土文劉裕 漢土之劉裕 米