Я[大塩の乱 資料館]Я
2014.6.8

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「大塩の乱関係論文集」目次


『大塩平八郎』

その52

丹 潔

(××叢書 第1編)文潮社 1922

◇禁転載◇

第五章 不惜身命
 第一節 鮮血に彩られし同志 (3)

管理人註
   

 堺北糸屋町医師寛輔が、十九日、女房の母の病気見舞ひに弓削村まで赴 いて帰へると、女房の弟なる西村七右衛門事利三郎がゐた。話が諸方面に 転じて、遂に大塩派騒動の話になると、利三郎は平八郎に煽動され、同志 となつて働いたと云ふことを述べた。すると寛輔夫婦は驚いて、煽動され て騒いだのだから、罪も軽い、これから自首したらどうだいと云つたが、 利三郎は聞き入れなかつた。彼は暫時身を隠すのだから、どこかへ宿を紹 介してくれと頼んだ。夫婦の尽力で伊勢国飯高郡垣鼻村の海会寺に身を任 すことになつた。さうして玄達と改名した。その寺に剛嶽と云ふ男がゐた。 彼は玄達の事を種々と面倒を見てゐるうちに、遂に親友となつてしまつた。 ふとしたことから、玄達は大塩派の騒動に就いて詳しく語り、また自分も その一人なることを打明けてしまつた。剛嶽は彼の大胆を賞美し、また現 在の身情に就いて非常に同情した。両名は寛輔の叔父なる仙台の大念寺を 尋ねる事にした。剛嶽は賽銭箱の金を掠奪して、玄達と共に大念寺を訪ね た。それは四月七日であつた。出発してから、二十日後であつた。  しかし大念寺の住職は両名の宿泊を許さなかつた。さうして僅かな金米 を与へて何処かへ逃走してくれと、云はれたので、やむを得ず江戸に来た 両名は、毎日托鉢に出掛けてゐたが、利三郎は五月五日に流行病の為に倒 れた。死体を浅草の遍照院に土葬した。  植松周次は、同志等と別れて諸方に逃走してゐたが、遂に京都で捕縛さ れた。  若党の曾我岩蔵は、淡路町の衝突に同志を見失つたが、再び逢つた。そ の後大和へ落ちる途中、大井正一郎に遇つたので、両名して磐若寺村の柏 岡伝七の宅に立寄つた。それは夜であつた。伝七は大塩派が敗北したと云 ふ噂を耳にしてゐたので、人足を引連れて行つても効果がないと思つて途 中から、帰宅してしまつた。両名は着込や革草鞋を預つてくれと云つたが、 恐れて受取つてくれなかつたのを、無理に脱ぎ捨てゝそこを出た。それか ら尊延寺村に深尾次兵衛を訪ねた。弟の才次郎は不在であつた。母の話に よると、和州辺に向つて立つたとのことであつた。不思議にも二十一日に 和州の初瀬辺の旅館で、才次郎及び新兵衛に出遇つた。そこでまた行先を 相談した岩蔵は、彼等と別れて、どうにかして平八郎父子の様子を知らう と大阪へ戻つたところを捕縛されてしまつた。  残つた三人は尾州に赴いて美濃路を経た。彼等は故郷の様子が聞きたか つたので、才次郎は金子工面の為に正一郎に書状を持せて、新兵衛と共に 自分の親戚なる京都へやつたが、その土地に入ると直ぐに捕縛されてしま つた。両名が出立後、能州福浦村の喜之助方で自殺した。  白井孝右衛門は、大塩派の敗北を聞いて、騒動に参加しなかつたが、同 志として連名した上は、処分せられると思つたので、剃髪して大和路へ逃 亡したが、直に捕縛された。  宮脇志摩は、騒動の時刻が間違へたので、それに参加しなかつたが、大 砲の車台に彼の名が刻まれてあるから、勿論同志の一人だ。二十日に玉造 口の与力八田、高橋の両名が、同僚を二十二名と、尼崎の兵で志摩の家を 包囲した。それと察した彼は、玄関先で切腹すべく、横腹に刀を突き差し たので、血潮がどく/\と流出した。それに驚いた両与力は、死んだもの と思つて立去つてしまつた。彼は死ぬ事が出来なかつた。これは疵口が浅 かつたからだ。その翌日に庄本村地内の溜池に彼の死体が浮んだ。  また橋本忠兵衛は大工作兵衛と共に、平八郎の遺言を伝へるべく、其の 夜、彼の家族が隠匿してある伊丹の紙屋幸五郎方へ走つた。騒動の顛末及 び遺言を述べると、ゆふとみねは、今自殺すると子供の弓太郎といくの前 途が困るから、両名の身が決まるまで、存命したいと涙ながらに物語つた。 感動した。忠兵衛はその翌日の暁方、一同と共にそこを出て、能勢郡から 丹州路を経て京都へ入つたが、旅人の身の上の調査が厳重なので、遂に捕 縛になつた。それは二十七日であつた。さうして二十九日に大阪へ護送さ れた。  騒動に参加しなかつた木村司馬之助、横山文哉、上田孝太郎、般若寺村 卯兵衛、白井儀次郎等も捕縛された。行衛不明となつたのは、志村周次、 河合郷左衛門の両名であつた。



幸田成友
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磐若寺村
「般若寺村」
が正しい






























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