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中斎は伊勢より帰つた、留守邸には往年幕府の重臣なりし岡本花亭が
津藩藤堂大夫に託して中斎の上府を促せる大夫の書簡が届いて居つた。
思ふに花亭は中斎を幕府に推挙する下心であつたらう。中斎は直に大夫
に返書した、其の中に言ふ、
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不侫は箚記にも有*之候通、最早再用願候念毛頭無*之。只太虚講学之
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一路のみに御座候。所詮要路之大官に無之候へ者、十分の存寄通り出
来不*申ものに候。以前吏務中にコリ/\致居候。此上は草莽中に蟄
し、定言を吐き、其中にも孝悌の道だけは興し度決心に御座候。
シヅタニ
是歳九月、中斎は岡山に遊び、熊沢蕃山の遺迹を尋ねて閑谷学校を観
た。十月近江に遊んだ。其の彦根に赴き、藩老宇津木下総の家に宿せし
は、或は是時ならんか。下総の弟矩之丞は静区と号し、中斎の門人にて、
其の弟迪は、後年黄石と号した一代の詩人である。中斎は迪等の為めに
経を講じた。
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石崎東国
『大塩平八郎伝』
その68
石崎東国
『大塩平八郎伝』
その72
石崎東国
『大塩平八郎伝』
その73
岡本黄石
(1812-1898)
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