インターネットの普及とパーソナル・コーチング
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今でもカウンセリングを受けるためには、カウンセラーのもとに時間をかけて、交通費もかけて通います。カウンセリングとは対面で行うのが社会常識なのです。もちろん面談は面談の良さがあります。

しかし、パーソナル・コーチングは普通は電話で行うのが社会常識です。日ごろ電話でコーチングをしている立場から言えば、今はインターネットの恩恵で、面談の意義がずいぶん薄れたと思っています。

電話しかなかったころは、電話は事務的に用件を話す手段で、電話で相談を受けても、情緒がなく味気ない、やっぱり面談でなければ、と思ったことでしょう。しかしインターネットができてからは情緒の問題がずいぶん克服できました。

ホームページやブログを前もって読んでおけば、相談者(コーチ)の顔つきはもちろん、人となりや考え方について、話す前からずいぶん知識があるわけです。電話にインターネットを併用すれば、同じように電話で話しても、情緒面で格段に豊かなのです。電話だけの時代ではこういうわけにはいきませんでした。

電話とインターネットを併用すれば、確実に時間と距離が克服できるのです。さらに通話にヘッドセットを使えば、耳が痛いとか、手がだるいといったこともありません。ごく自然に通話ができます。

ですから、コーチングを申し込むほうは、いきなり電話でもほとんど抵抗感がないのです。インターネットの普及がパーソナル・コーチングの普及につながった、というのは疑いのないところでしょう。

プロのコミュニケーターのプレゼンスを学ぼう
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コミュニケーション能力を上げるには、プロのコミュニケーターとして活動している人の謦咳に接するのがポイントです。セミナーを聴きに行っていってもいい。懇親会で一緒になってもいいです。そうしてプロのコミュニケーターのプレゼンス(存在感)を学ぶのです。プレゼンスというのは人格とコミュニケーション力が醸し出す雰囲気のことで、その人の人間力の反映です。

コーチングの勉強を始めた時、私はわざわざ会費を払って、プロのコーチが多数在籍するコーチング研究会に入会しました。その研究会の謳い文句は、会員になれば、プロのコーチは無料で相談に応じます、というものでした。

そこでプロとして活動されている方全員にメールでコンタクトを取り、会ってもらうか、電話でセッションという形で、話をさせてもらう挙に出ました。

感想は、とくに神様みたいな人はいないな、普通の人ばかりだな、ということでした。シッカリ者だな、と思った人もいましたが、疑問符を付けざるを得ない人もいました。プロのコーチというのはこの程度のものなんだな、この程度なら自分にもできるな、思えるようになったのです。

これまで多くのコミュニケーションの達人、あるいは達人と目される人は、セミナーに出席するという形で見てきました。なるほど、あのプレゼンス(存在感)は素晴らしい、と思いました。しかし、一方で、あのレベルは自分の十分手の届く範囲だ、とも思ったのです。自分は自分の持ち味がある、自分は自分の持ち味で勝負すればよいのだ、と一貫して思ってきました。

この程度なら、自分にだってできる、この相手を呑む感覚は何よりも大切なのです。そうした想いが、自分を支え続ける力となり、どんな相手に対しても一切物怖じしない気迫となって現れるのです。

コミュニケーション力をアップさせるには、プロのコミュニケーターを見に行く、そしてプロのコミュニケーターのプレゼンス(存在感)を学び、自分の物とする、これは日ごろから心がけるべきポイントです。

私のコーチング事始
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NHKの特集番組でストレスに悩むエリート・ビジネスマンが電話でカウンセリングのようなサポートを受けているのを以前何かのおりに見たことがあります。後日、コーチングという言葉に出会って、インターネットを検索していくうち、あ、これをコーチングというんだ、これだこれだ、と思った次第です。

インターネットを検索してみると、コーチングをやってる人のホームページに行き当たりました。無料でコーチングの体験ができるというので、申し込んでみました。5人くらいお願いしたと思います。はじめは、コーチングをやっててどうですか?で情報収集から入ったのですが、すぐに自分もコーチングをやってみたいが、どうでしょうか、に変わりました。2人のコーチから、「あなた向いてますよ、頑張ってください」と背中を押していただき、自分もコーチングを始めようと決心しました。

コーチ21が出している、CTP(コーチ・トレーニング・プログラム)という電話会議を使ったオンライン講座があります。これは当時55万円と高額で、ずいぶん躊躇したのですけれど、参加することにしました。

大金を払うのですから、開業の目処はつける必要があります。当時、藤井孝一さんの「週末起業」という言葉が少しずつ流行りはじめた時期でした。コーチングをやるなら週末起業しかない、と心に決めました。週末起業にはインターネットの活用−ホームページが不可欠です。

早速、コーチングのホームページの制作に着手することにしました。当時のホームページは稚拙なもので、あちこちの文献やサイトを参考にした内容で体裁を整えたものでした。私はSE出身なので3日で立ち上げました。もちろん、それ以降も何度となくホームページに手を入れ、今日に至っています。

コーチングという業界は右も左もわからないので、水先案内人が必要です。インターネットで検索すると、同じ母校のOBのY氏が会社を辞めてコーチ業をされているのが目にはいりました。連絡を取って会ってもらうことにしました。

Y氏は飾らない人で、先輩後輩ということもあって話が弾みました。その勢いでY氏に自分のコーチをお願いすることにしました。料金は?と訊くと「いくらでもいいよ」と言っていただけました。こうしてY氏とのセッションが始まりました。

自分がコーチングを受ける方はこれでOKです。次は自分がコーチングをする方です。いきなりお金をとってコーチングするわけにはいきませんから、最初は誰でも無料の実習から始めます。そのために実習相手を探す必要があります。

定年退職をされた趣味仲間のFさんにも実習をお願いしました。Fさんは趣味仲間ということもあり、扱いが難しかったです。悠々と退職後の生活を楽しんでおられるFさんに特段の目標があるわけでなく、私が一方的に話をうかがうだけのセッションになりました。全然コーチングらしくなかったですが、3ヶ月続きました。これはこれでケース・スタディとしては貴重な体験でした。

Fさんの長女はFさんが米国駐在中に知り合った米人と結婚されていて、今は夫妻で日本に住んでおられます。ある日Fさんから自分の娘婿が失業して悩んでいるから、コーチングで面倒をみてやってくれないか、とお話がありました。

正直なところ仰天したのですけれど、これも経験ということでお引き受けし、英語でのセッションが始まりました。私も米国に留学経験があるので、英語には不自由しないのですが、英語でのコーチングはある意味究極の体験でした。ずいぶんと根性も度胸もついた気がします。

このほか、あと5名くらいの方々と無料で実習したと思います。

私がコーチングを始めてちょうど100日経過したころです。当時私のホームページは「コーチング」の検索ワードで14位くらいにつけていたと思います。私は大阪在住ですが、宮城県の建設会社の常務さんが、体験コーチングを申し込んで来られました。終了したところ、

「先生、今後ともよろしくお願いします」

と言われるのです。この方が有料クライアント第1号でした。

師匠のT先生に報告したところ、

「杉本君、よかったですね。0と1は大きな差がありますが、1と2はあまり変わりません。まもなく2人目も来るでしょう」

と言っていただけました。先生の言われた通り、まもなく2人目も獲得できました。しかし、クライアント数5人をなかなか超えることができない、泣かず飛ばずの時期が半年ほど続きました。

そうした後、2年目で10数名、3年目で20数名とまずは順調にクライアントを増やし、今日に至っています。パーソナル・コーチングの他、月に1度くらいの頻度で研修講師のお声もかかるようになりました。

教育商品の限界
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教育商品のコーチングとお金を取れるコーチングとどう違うのか、これは方向性のコンサルティングの有無に尽きます。方向性のコンサルティングとはいかなるものか、以下実例です。

クライアントのSさんは建設会社の営業支店長です。

前任者たちが、良くない物件を言葉巧みに売ってきたせいで、地域の評判は良くなく、信頼の回復が課題とのことです。支店の営業成績は上がっていません。

Sさんは営業担当者との対話を開始し、2〜3日の周期で成績の上がらない担当者をフォローし始めました。これで支店の雰囲気はだいぶ良くなってきたそうです。しかし、依然として信頼の回復という課題は残っています。

「信頼が回復して来ているというのは、どうしたらわかるのですか?」

「営業担当者が外回りしたときのお客さんの反応ですね。後は成約件数です」

「信頼の回復というのは長い道のりです。マラソンでいうと何キロ地点という途中経過がわかりにくいように思うのですが」

「と、いうと?」

「お客さんの反応はたいへん主観的なものですね。成約は結果でしょう。すると現状では42キロのゴールに来ているお客さんはわかりますが、他のお客さんは何キロ地点かわからないですね。10キロ地点のようでもあるし、20キロ地点のようでもある」

「・・・・・・」

「たとえば、顧客の信頼が回復してきているということを示す条件みたいなものはありませんか」

「それは物件の見学会に来ていただけることでしょうね」

「そうしたら、見学会に来てくれそうもないお客さんのリストをつくり、その中から何件来てていただけたか、を管理して行ったらどうでしょうか。信頼性の回復が数字で出ますよ」

「なるほど、それは気が付きませんでした」

もちろん、私はこの営業支店の施策を具体的に策定したわけではありません。しかし、信頼の回復の概念が曖昧であることを指摘し、途中経過を客観的な数字で把握することを提案したわけです。その結果、Sさんはこの方向で施策をまとめることになりました。

こういうのを方向性のコンサルティングと言うのです。

教育商品での実習のコーチングは、対話の型を学ぶ上で役に立ちますが、内容的にはお遊びです。やってる当事者はそれなりに楽しいのですが、横で聞いていて、アホらしいと感じる人は多いと思います。

お遊びの内容で、クライアントが真に必要とするような方向性のコンサルティングはできようがありません。このあたりが教育商品の限界と考える次第です。

広義のコーチングとはカウンセリングを組み込んだもの
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狭義のコーチングはカウンセリングを除外したものですが、広義のコーチングはカウンセリングを組み込んだものです。とくにCTIのコーチングはこの広義のものです。たとえばこんな例が『コーチング・バイブル』に掲載されていました。

コーチ21の方は、どちらかというとカウンセリングは排除していますが、全く排除しているわけでもないように感じました。

つまり教育商品としてのコーチングは、カウンセリングも組み込んだ広義のコーチングを「コーチング」と称しているわけです。

たとえば、プロジェクトが遅れているため、あなたが顧客から手ひどく叱責されたとします。あなたは強いショックを受け、精神的重圧を感じることでしょう。こうなってしまうと、あなたはプロジェクトの遅れという問題に加えて、自分にかかってきた精神的重圧とも戦わなくてはなりません。

こういった精神的なストレスを抱えたままで、仕事に邁進することなど到底不可能ですから、まず気持ちの整理をつけるたり、心の持ち方を変える必要があります。しかる後にプロジェクトの現実の問題を解消すべく行動を起こす具体的な外的行動を策定することになるのです。

つまり、何か問題が起こった場合、

@気持ちの整理をつける(内的適応)
A問題を解消すべく行動を起こす(外的行動)

この2つのステップで問題を乗り越えていくのです。これは自問自答の自力で解決するにせよ、人に助言を求めるにせよ、

@内的適応 → A外的行動

の順序となります。内的適応が外的行動に先行するのです。

カウンセリングとコーチングの定義は諸説がありますが、結局、カウンセリングは内的適応を支援するもので、コーチングは外的行動を支援するもの、と言って大筋間違いありません。

問題によっては内的適応の支援だけで済むケースもありますし、外的行動の支援だけで済むケースもあります。しかし、多くの場合、内的適応の支援と外的行動の支援が両方必要なのです。つまり、多くの場合、コーチングではカウンセリングという支援も求められるのです。言い換えると、

広義のコーチング=カウンセリングのフェーズ+コーチングのフェーズ

と言っていいと思います。

広義のコーチングでカウンセリングのフェーズだけを扱えば、カウンセリングと等価です。実際のところ、問題によっては、カウンセリングのフェーズのみ扱うことも多いのです。つまり心の持ち方を変えれば、問題は解決し、外的行動は特に必要がないというケースがこれにあたります。

広義のコーチングを始めると、通常はカウンセリングまで踏み込まざるを得ないのです。つまり、カウンセリングにコーチングのフェーズを追加したものが、広義のコーチングであるわけです。広義のコーチングを始めてしまえば、カウンセリングで終わることもできるし、コーチングとして終わることもできる、それはクライアントの問題次第だ、ということになります。

こういった理由で、広義のコーチングとはカウンセリングを組み込んだもので、カウンセリングを兼ねる、と言っていいと思います。ただし鬱病治療の医療系カウンセリングは別枠で考えたほうが良いと思いますが。
300 カウンセリングは愚痴か
299 助言手法にこだわるな
298 閉塞感の中で一歩踏み出す
297 自分の人生は自分で評価
296 「答えはあなたの中にある」というコーチング哲学の功罪

*
295 カウンセリングを切り捨てたコーチング
294 目上は変えられない、自分が変わるしかない
293 つかまない
292 ニーズのない人
291 経営者・管理職は外的コントロール世代

*
290 臨床は財産だ
289 『巨人の星』は外的コントロール
288 コーチングはすぐれて論理的な対話
287 ヒマに耐えられる器
286 選択肢はどんどん捨てる

*
285 インターネットの普及とパーソナル・コーチング
284 プロのコミュニケーターのプレゼンスを学ぼう
283 私のコーチング事始
282 教育商品の限界
281 広義のコーチングとはカウンセリングを組み込んだもの
*
280 方向性をコンサルティングする
279 地獄から抜け出す
278 ネット・カウンセラー
277 自在性
276 沈黙

*
275 配合比率
274 盲目的な従順は人間失格
273 ウナギになろう
272 嫉妬
271 論理と柔軟性

*
270 『千と千尋の神隠し』
269 論理
268 良心に忠実であるということ
267 対話のパラドックス
266 ネット・カウンセラーの市場

*
265 コーチング・セミナーの意義
264 元「外的コントロール」の信奉者
263 外的コントロールなき家庭
262 骨付きの肉
261 外的コントロール

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260 衆知を集める
259 争う
258 アンコーチャブルな人の相手(最終)
257 アンコーチャブルな人の相手(続き)
256 アンコーチャブルな人の相手

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255 自分が探しあたらなければ
254 メール
253 ワクワク感の陥穽
252 今の仕事の否定形
251 気管支炎その後


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