臨床は財産だ
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私はインターネットでコーチングのウェブサイトを5つやってます。おかげさまでこれまで400名近くの方がコーチングの体験を申し込んで来られました。

以前の私は何とかクライアントとして成約させることを第一に考えて来ました。ですから、成約できない、「体験だけ」の方に対して、やはり何がしかの失望感はありました。これは今もそうですが、最近ちょっと考え方が変わってきました。

今となっては、もはやどなた相手でも、一応自分の納得できるコーチングができるようになったのです。これはほかのコーチと比べ物にならない数の「臨床経験」を経てきたからです。となると、「臨床経験」は財産です。

私が納得できるコーチングができたのに、クライアントとして成約できないというのであれば、それは相手の問題であり、私の問題ではありません。自己満足かもしれませんが、社会奉仕させていただいている実感もありますし、まぁいいんじゃないか、と思い始めています。それで「臨床経験」も増えるのですから、言うことなしであるわけですね。

私はコーチ専業ではなく、本業を持って経済的に自立できてますので、こういった考え方も許されていいでしょう。

ただ今後ともプロとしてお金を頂戴するこだわりは捨てるまい、とは思っています。

『巨人の星』は外的コントロール
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ビジネス・コーチングとは質問することで、外的コントロールを排除する手法です。

外的コントロールに対する認識は時代とともに変わって来ました。

1969年当時『巨人の星』や『アタックNO.1』といった、いわゆる「スポ根」もののアニメが放送されていました。あのスパルタ式の鍛え方は外的コントロールそのものです。当時はあのような外的コントロールの教育法が良しとされたわけです。しかし、今はスパルタ式のやり方は全くはやりません。

1983年にはNHKで連続テレビドラマ『おしん』が放送されました。苛められて耐え忍ぶストーリーは、見ていても、

「あ〜、かわいそう」
「ほんとに憎たらしい」

と思ったものでした。『おしん』は当時としても、むしろ「古い」タイプのドラマでした。これに対して、近年放送されているトレンド・ドラマはもっとストーリーが飄々として軽いです。何が違うのでしょうか?

『おしん』はストーリーに相対的に外的コントロールが多いのです。これに対して近年のトレンド・ドラマは相対的に外的コントロールが少ないというわけです。

最近は韓国ドラマが流行っていますが、こちらも外的コントロールが多く、ストーリーが「古い」というわけです。そのために郷愁を誘うのです。

つまり、昔は外的コントロールが当たり前、今は外的コントロールでないのが当たり前というわけですが、これは社会的な変化があったからです。

その変化とは?経済の高度成長から低成長への転換です。

高度成長期はつくれば売れた時代でしたから、過去の成功体験の踏襲でOKで、その場合はマネジメントも指示・命令して、後は外的コントロールで締め上げる、というのでよかったわけです。指揮系統は硬直しており、職場のストレスは大きく、効率も良くありませんでした。しかし、それでもやっていけたわけです。

低成長期はものが売れず、衆知を集めなくては勝てない時代です。こんな時代にあっては過去の成功体験は失敗の元です。世の中も格段に複雑になって来ています。上司の指示・命令だけ対応不能で、社員が自律的・自発的に動くのでなければ、とても組織として生き残って行けないわけです。そこでマネジメント手法は外的コントロールを排除したコーチングが注目されたのです。職場のストレスは小さく、クリエイティブで、効率も良いわけです。

高度成長から低成長への転換点は、1973年のオイルショックです。つまり70年代から80年代にかけて、外的コントロールで良かった社会から、外的コントロールを受け入れない社会へ移行が開始したと考えられるのです。

現在でも、外的コントロールで良かった時代の残滓が世間に根強く残っています。まだまだ多くの人が「外的コントロール」を信奉しているのです。私自身も外的コントロールを長い間正しいこと、と理解していました。十分人間力のある人が、外的コントロールについて誤解しているため、ストレスに満ちた職場運営行っているというのは、まだまだ多いというわけです。

コーチングはすぐれて論理的な対話
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日本人はどうも徹底して聞く、という文化を持ってないのです。以心伝心で「わかるやろ」「わかった」だと、微妙に食い違ったまま話は前に進んで行きます。農耕民族ゆえに以心伝心を良しとするからでしょう。和をもって尊しとなす、というのもあります。要するに日本は論理(ロジック)の文化ではないのです。

ですから、私たち日本人は、相手の真意を知るために、とにかく相手の話をよく聞くこと、そして相手の話を自分なりの感性で要約して、それを相手にぶつけてさらに聞き出すこと、少々この訓練が必要なように思います。そのためにはうるさがられても、徹底して質問する、そして徹底的に理解に努める。ポイントは論理的に相手の話を整理することです。

コーチングの公式は、

徹底して聴く ⇔ 相手の真意を論理的に整理する → 相手が矛盾に気づいて答が見つかる

「徹底して聞く」⇔「相手の言ったことを自分の感性で要約する」という行為の繰り返しによって、相手は自分の思い込みや考え方の矛盾に気付いて行くのです。

たとえば、

「どうも最近何をするのも億劫だ、何とかしなければ」

とクライアントさんが言ったとします。

「ああそうなんですか、億劫なわけですね、じゃどうしたら良いと思いますか」

と、ものわかり良く受け入れてしまうと、話が深まりません。そもそもクライアントさんが意味する「億劫」とあなたの理解する「億劫」がイコールである、という保証はないわけです。

億劫でない状態にするべくコーチングする場合、下記のような質問をすることになります。

「あなたの言う億劫とはどういう心の状態ですか」
「あなたが億劫な時と億劫でない時と何が違うのですか」
「あなたはどういったことに対して億劫になるのですか」
「あなたはどういった理由で億劫になるのですか」
「あなたは億劫にならないために、たとえばどんなことができますか」

こういった質問は日本風の以心伝心とは異質の西洋的な対話です。論理という点ではデベートに合い通ずるものがあります。

コーチングはすぐれて論理的な対話である、と言う点を押さえてください。

ヒマに耐えられる器
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神戸製鋼ラグビー部ゼネラルマネージャーの平尾誠二さんが某雑誌のインタビューで次のように言っていました。

「・・・本来、マネジメントする側は新しいものを開発するとかシェアを拡大するなど、外に向かって力を発揮しなければならないのです。管理のために内側に力を費やしていては、チームや組織はどんどん弱体化してしまいます。ポイントは、選手が勝手に自分たちの意思でどんどん動き出す仕組みをつくれるかです。それが動き出せば、管理しなくても創意工夫や改善が行われ、リーダーの力は内向き(管理)ではなく、すべて外側に向けることができる。たぶん、力の使い方としてはこれが一番効率的だと思います」

さすがにいいことを言う。全面的に同感です。

ただ、勝手に自分たちの意思でどんどん動き出す仕組みができてしまうと、管理者はヒマです。世間の管理者でこのヒマさ加減に耐えられず、変に部下の仕事に介入してブレーキをかけている人が数多くいます。

つまりやる必要のない仕事をしているくせに、自分は仕事をしていると思っているわけです。この結果、がんじがらめの硬直した雰囲気が職場を支配することになります。内勤の管理職にこの手合いは多いのではないかと思います。

逆説的な言い方ですが、管理者はヒマに耐えられる器でないとダメなのです。管理者が仕事をしない言い訳のように聞こえるかもしれませんが、わかる人はわかるはずです。ブレーキをかけるような仕事なら、はじめからやらないほうがいいに決まっているからです。

ビジネス・コーチングの行き着く先は、ある意味、「放任」なのです。もっともらしく言うと「権限委譲」になります。「放任」して人間力で君臨するのができる上司なのです。

選択肢はどんどん捨てる
286



私と同い年の女性でしたが、体験コーチングを申し込んできて、要は、

「自分は人生何をしたらよいかわからない」

のだそうです。今までこうした人はずいぶん相手をしてきたのですけれど、最近は文面で判断して、

「やりたいことを自分で整理してから、再度連絡お願いします」

と言うことにしています。メールでそう伝えたところ、暫くしてまた連絡があり、

「英語が勉強したい」

とのこと。特に文面からは英語の勉強に特段の障害があるように感じられませんでしたので、

「勉強したらいいではないですか。私のコーチングでどうしたいのですか」

と再度メールで返しました。返事は、

「モチベーションが続かない」

のだそうです。あまり留保していても申しわけないので、一度セッションしてみることにしました。英語を勉強する動機は、会社でごくたまにある海外顧客の接待をうまくこなしたいというだけのことで、そりゃ続かんわな、と言うしかない。迷わず、こう言いました。

「モーチベーションが続かないなら、始めからやらなきゃいいんじゃないですか?その程度では英語を勉強する必要は特にないでしょう?」

「・・・・・・」

「英語はあなたがやりたいことでもなく、やらなければならないことでもなく、やらなければならないと思い込んでることなんでしょう?」

40代も後半にもなって、英語がやりたいといってみたり、その挙句他人からこんなふうに言われて、右往左往しているのは気の毒というしかないです。しかし迷った時とはそんなものなのでしょう。

40代後半にもなったら、何かひとつは残すにしても、自分の持っている選択肢はどんどん捨てる必要があるのです。選択肢を後生大事に温存していては身動きが取れません。

「貴女が時間を忘れるほど好きなことはなんですか」

と訊いたところ、ピアノ演奏、と返ってきたので、

「それをやったほうがいいですよ」

でセッション終了。自分探しとはかくも難しいものなのか、それともこの人の自覚が足らないだけなのか、あまり後味のよいセッションではありませんでした。
300 カウンセリングは愚痴か
299 助言手法にこだわるな
298 閉塞感の中で一歩踏み出す
297 自分の人生は自分で評価
296 「答えはあなたの中にある」というコーチング哲学の功罪

*
295 カウンセリングを切り捨てたコーチング
294 目上は変えられない、自分が変わるしかない
293 つかまない
292 ニーズのない人
291 経営者・管理職は外的コントロール世代

*
290 臨床は財産だ
289 『巨人の星』は外的コントロール
288 コーチングはすぐれて論理的な対話
287 ヒマに耐えられる器
286 選択肢はどんどん捨てる
*
285 インターネットの普及とパーソナル・コーチング
284 プロのコミュニケーターのプレゼンスを学ぼう
283 私のコーチング事始
282 教育商品の限界
281 広義のコーチングとはカウンセリングを組み込んだもの

*
280 方向性をコンサルティングする
279 地獄から抜け出す
278 ネット・カウンセラー
277 自在性
276 沈黙

*
275 配合比率
274 盲目的な従順は人間失格
273 ウナギになろう
272 嫉妬
271 論理と柔軟性

*
270 『千と千尋の神隠し』
269 論理
268 良心に忠実であるということ
267 対話のパラドックス
266 ネット・カウンセラーの市場

*
265 コーチング・セミナーの意義
264 元「外的コントロール」の信奉者
263 外的コントロールなき家庭
262 骨付きの肉
261 外的コントロール

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260 衆知を集める
259 争う
258 アンコーチャブルな人の相手(最終)
257 アンコーチャブルな人の相手(続き)
256 アンコーチャブルな人の相手

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255 自分が探しあたらなければ
254 メール
253 ワクワク感の陥穽
252 今の仕事の否定形
251 気管支炎その後


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