Я[大塩の乱 資料館]Я
2000.10.26
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大塩の乱関係論文集目次
「大 塩 平 八 郎」
その66
猪俣為治
『朝日新聞』1898.12.19 所収
朝日新聞 明治三十一年十二月十九日
大塩平八郎 (七十八) 猪俣生
其十四 大破裂(続)
斯の如く大阪の奉行ハ、人民を賑恤して只管(ひたすら)其安堵慰撫に力を尽せしと雖も、奇なるかな市民ハ奉
行を徳とせずして、却て平八郎を慕ふもの頻りなりき、左に記するものハ西町奉行堀伊賀守の宅に在る老女某が、江戸に在る其子茂三郎に事変を報ぜし書翰の一節なり、
今日で七日、うろうろ大まごつきに御座候、誠に殿様(堀伊賀守)にも両度迄御戦ひ遊ばし、常樣(伊賀守の子息か)*1 私共ハ落人同様迯あるき、江戸なつかしく、もしや大変となり候はゞ、身を忍び常樣御供、江戸へ帰ることと存候位、心配御察し可被下候、極内々ながら、おしなべて町奉行わるくいはれ候が残念に御座候、大塩ハ人をなづけるつもりにて、平生施を致遣候故、慾に目のくれ候人心故、何か下々にハ、大塩を神仏の様申候、東樣(跡部山城守)御こわがり、御家来へ被下候虎屋饅頭 *2 ばかりにても、二十五両と御噂承はり候、
又当時大阪に於て流行したる、此事変に関する俚謡の一斑を記せバ、
土オ井、大炊、跡部どの、あの鐘火事だか聞てくれ、町奉行ハ仰天し、イエ\/火事でハござりません、与力がでかした一揆のぶちこわし、
まづ\/お先へ参上と鎗々鉄砲を手限り抜きまわし何の苦もなく一(ひ)トいくさ、命と城のかいかいハ誰衆も御役柄、キゝン\/
跡部ハ難波の御奉行さん、大塩にもまれて御色がまつさをだ、堀ヤかまやせん
加番何する天満の火事に
「ノウコレサ鎧かぶとや火事具にこまる
「ヤレコレサ火イハ燃る
「シン軍\/オゝオカ進軍\/
斯の如くして二月ハ畏怖恐慌の中に経過せり、列藩の警備と銀百枚の懸賞とハ其甲斐なく、平八郎
の踪跡ハ未だ分明ならざりき、既にして三月の中旬と為れり、平八郎跡を晦ましてより、今や殆ど一月を経過するに至れり、然れども未だ平八郎の踪跡ハ分明ならざりき、天下の人々ハ平八郎を以て、深く山谷の間に隠匿したるに非ずんバ、遠く海洋の外に遁逃したるものと為せり、然るに三月の下旬に至るや、一団の疑惑ハ大阪靱通の上に掛れり、
靱通油掛町に美吉屋五郎兵衛と云ふものあり、染物の形置を職とし、婢僕七八人を使役せり、其妻曾て平八郎の家に婢たりしことあるを以て、常に平八郎の家に出入して今回の挙に於ける籏幟(はたのぼり)等、一々皆此美吉屋の手に成れり、故を以て美吉屋ハ審問の末町預と為り居れり、然るに美吉屋の婢女、此三月に至りて暇を乞ひ、摂州平野在なる己の家に帰れるものあり、一日三四の農夫、婢の家に会し、共に米価の高直なるを歎じたりしに、此婢旧主家の二月末より、故なくして飯米の多きを加へたるを語れり、人々之を聞くや、或ハ平八郎の此家に潜伏するやを疑ひ、婢の親をして之を庄屋に訴へしむ、元来此平野ハ大阪城代の采地に属するを以て、庄屋ハ陣屋を経て城代に訴へたり、城代大炊頭之を聞くや、直ちに数十人の与力同心を靱通の各要所に配置して、先づ其遁逃を防ぎ、而して之を逮捕せんとしたりしも、人々畏れて之に向ふものなく、空しく二三日を経過せしが、遂に大炊頭ハ堀伊賀守の組与力内山彦次郎及び自家の老職鷲見十郎左衛門 *3 に命じ、二十余人の精錬の士を率て、逮捕の任に当らしむ、彼等先づ美吉屋の夫妻を町会所に呼びて之を吟味し、其屋後の茶室に潜伏せるものあるを知り、妻を案内者として之に向へり、是を三月二十六日の黎明と為す、彼等乃ち美吉屋を囲み、一人茶寮に近づきて、低声に戸を叩けバ、人あり内より応じて微(かすか)に戸を開きしが、大に驚くものゝ如く忽ち戸を閉ぢて復た開かず、因りて戸を毀ちて之に闖入せんとせしに、戸内頻に鉄砲々々と連呼せり、人々之に畏懼して稍躊躇するの間、轟然たる一発の砲声と共に、火焔茶寮より【分/土】起す、蓋し平八郎予じめ硝薬を室中に装置して以て不虞の備と為したるなり、是に於て捕吏等防火に尽力したるを以て、纔(わづか)に延焼を免れたり、火鎮まるの後、之を点検すれバ死屍二を得たり、其面貌焦燗して弁ず可らずと雖も、蓋し平八郎 格之助二人の遺骸なり、時に平八郎ハ齢(よはひ)四十四才にして、格之助ハ齢二十五才なり、
管理人註
*1 堀伊賀守五男常三郎は、この年5月死去。『大阪市史 4下』p1290「補達582」
*2 虎屋は「饅頭切手」も出していた大坂の有名な菓子屋。1箇5文。『浪華名所独案内』にも記載されている。鴻池の南、高麗橋三丁目。
*3 家老鷹見十郎左衛門、泉石。
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